義兄と結婚生活を始めます

ふと、腕時計を見たあおいは、慌てて立ち上がった。


「和真さん、今日会議あるって言ってましたよね!?早く出ないと!」

「…あおいさんは…」

「私は後から行くって言ったじゃないですか!ほら、急いでっ」


ゆっくり立ち上がる和真の背中を押していると、急に抱きしめられた。


「わぷっ」

「今日は早めに帰ります」

「じゃあ、肉じゃが用意しておきますね!それから」

「あおいさんのココア…と、こちらも話を進めましょう」


和真はあおいの手を取ると、左手の薬指に指輪をはめた。
呆然とするあおいの頭をポンポンと撫で、和真は玄関へ向かった。


「ちょっ、かずっ…、か、和真さん!!」


今度はあおいが和真の背中を抱きしめる。


「なんっ、い、いつ…っ」

「…びっくりしましたか?」

「っ…!」


コクコクと何度も頷くあおいは、ポロポロと涙をこぼし始めた。
フッと微笑む和真は、振り返ってこぼれる涙を指先で拭う。


「笑ってほしいのですが…」

「無理ですよぉ〜…!」


自分の胸元に寄りかかるあおいは、涙が止まらないまま、ギュウッと和真の背中に手を回した。


「…父からも急かされていますし、お義父さんも安心できないでしょう。帰ってきたら話…を……」

「もしもしぃ〜祐希くんん〜!そう…だってぇ〜!和真さんがっ、ゆ、指…指輪くれたぁ〜!!」

「……失礼。草野くんですか?…はい。そうです。すみません、秘書のお仕事も忙しいのに。近々、式への出欠の手紙を送るので、必ず出席してください。では」


あおいが握っていたスマホを切ると、ポンポンと落ち着くまで背中を優しく叩く。
すると、ハッとしたあおいは、顔を上げて和真の左手を見た。


「…付けてない…」

「じゃあ、あおいさんが付けてください」


小首を傾げる和真は、あおいへスマホを返しながら、自分の分の指輪を差し出した。
少し震える手で、和真から指輪を受け取ると、左手を取って、ゆっくりとはめる。


「…結婚式みたい…」

「二人だけですがね」


和真と顔を見合わせると、お互い同時にふき出して笑った。
再度、あおいの頭をポンポンと撫でる和真。


「いってきます、あおいさん」

「いってらっしゃい!」


玄関のドアを開けて、先に出た和真を見送ると、改めて指輪を見る。

愛おしい気持ちで、そっと指で触った。


「今日も頑張ろう!」


それから、玄関のドアを後にして、あおいも出社する準備のために、リビングへ戻った。




… FIN.