【短編】雫玖くんの甘いところ。






「…ホントに覚えてない? 第一志望の高校の、入試の日」


「——あ」





言われて、ふつふつと記憶がよみがえってくる。




確か…。
あの日、印象的な出来事があった。




それなのに、なんで忘れていたんだろう。





「…女の子の、ハンカチを取ろうとしてて、私…」


「そう。…で、そこにひとり男が来たでしょ?」





…確かに。
最終的にハンカチを取ったのは、私じゃない。




…じゃあ、まさか。





「…雫玖、くん?」


「そ、正解。…本当は、自力で気づいてほしかったんだけどね」






…だって、あの日は…。
入試のことで頭いっぱいで、名前を聞く余裕もなくて…。



人見知りして、顔もろくに見てなかったし。