【短編】雫玖くんの甘いところ。






高すぎず、低くもなく、心地よい声色で。
俺を『雫玖くん』と呼ぶ。



呼び捨てでいいのに。
…依緒になら、呼び捨てにされたいのに。




それでも、依緒は『恐れ多いから…!』と未だにくん付け。



彼女なのに恐れ多いって、なんだよ。
意味不明。
…俺は、依緒にしか名前で呼ばれたくない。





「依緒」


「ん…っ」





俺は、今日も。
誰より愛おしい彼女に、口をつける。



首筋にマーキング。
誰も近寄らないように。





「し、雫玖くん…」


「ん?」


「…あ、あの…」





恥ずかしそうに目を伏せる依緒。
うん。分かってる。
好きって言われたいんだよな?




依緒のこと、なんでもわかる。




”聞きたい”って言わないと、言ってやんない。
これね、依緒への腹いせ。



俺との初対面の日を忘れてる罰。





「…き、聞きたい…」






ふって笑ってしまった。
だって、あまりにもかわいい。



こんな可愛い彼女がいるんだぞって自慢したい。



…でも、見せたくねぇな。
他の奴、だれにも。




依緒が可愛いこと、これ以上知られなくていい。