青春のたまり場 路地裏ワンウェイボーイ

 5時を過ぎると帰宅組が少しずつ増えてくる。 奥さんも弁当を買いにやってくる。
行け行けドンドンの時代だからご主人様は夜遅くまで戦ってるんだろうなあ。 となると奥さんは、、、。
 「主人は弁当で我慢してもらってます。 遅くまで待ってるのは大変だから。」 そうだろうなあ。
共働きで奥さんは早めに帰って来ても旦那は10時くらいまで会社で踏ん張ってるからね。 夜は何のために帰ってくるんだろう?
帰っても疲れ切ってるから風呂に入って一杯飲んだら死んだように寝てしまうって聞いたことが有る。 それもどうかと思うがね。
 6時を過ぎると夜のバイト君がやってくるから俺は彼に店を任せて帰るのであります。 そするとだねえ、夜飯の準備をするのよ。
奥様はまだまだ帰ってこないからね。 今のうちにご飯を炊いておくのよ。
やっと炊飯器が電気になったからね 楽だわ。 それまではガスだったから大変だった。
 調整しなきゃ失敗するし金も掛かるし、、、。

 「さてと、おかずも一緒に作っちゃうか。 魚でも焼こうかな。」 冷蔵庫を漁ってみると鰯が何尾か入っている。 「美味そうだなあ。」
鰯をささっと洗って塩を振ってグリルへ、、、。 「美味しい鰯ちゃん 今夜もうまい具合に焼けてね。」
 それから味噌汁を作りましょうかね。 大根と豆腐と油揚げを出しまして、、、。
 (俺っていつから料理人になったんだろう?) そんなことを考えながら料理を作っていますと、、、。
「ただいまーーーーー。 何か美味しそうな匂いがするーーーーー。」 芳江が帰ってきた。
「お帰りなさいませ。 奥様。」 「やあねえ。 よそよそしいじゃない。」
「たまにはこういうのもいいかと、、、。」 「似合わないからやめて。」
「つまんねえの。」 「あなたはあなたでしょう? それでいいわ。」
「いつもは俺を小馬鹿にしてるお前がか?」 「何ヨ それ?」
「どっかの食堂の御令嬢様は貧乏男子がお嫌いだからねえ。」 「だから何よ?」
「どっかの金持ちでもひっ捕まえたらどうなのさ?」 「居ないから困ってるのよ。」
「へえ。 困ってるようには見えないけどなあ。」 「あなたには分からないのよ。 私の気持ちなんて、、、。」
「分かってたまるかってんだ。」 「それにしてもいい匂いがするわねえ。」
「うわ、話を替えやがった。」 「こんな旦那と話しても面白くないもん。」
「言うなあ、こいつ。」 そう言いながら芳江の胸をツンツンしてみる。
「坊ちゃん、それは後でね。」 「朝から思いっきりやったもんだから飽きてるんだろう?」
「朝から何かやったっけ?」 「ああもう。 いっつもこれだからなあ、こいつは。」
 俺は口を尖らせて鍋の蓋を開けた。 いい具合に味噌汁も出来たみたい。
 「出来たぞ。 食え。」 「何ヨ 偉そうに、、、。」
「すんませんねえ 偉そうで。」 「柄に合わないからやめたほうがいいわよ。」
「んもう、、、。」
 今夜もこうして仲がいいのか悪いのか分からない夫婦の夜が始まるのであります。
「お風呂沸かしてね。」 「いっつも沸かしてますけど、、、。」
「あらあらごめんなさいねえ。 気付かなくて。」 「別にいいけど、、、。」
「そうなの? じゃあ近所の敏夫さんと一緒になろうかなあ?」 「いいんじゃないの? あいつならケツの大きな女好きだから。」
「あらまあ、何処かのお坊ちゃんもそうじゃなくて?」 「何処かのお坊ちゃん?」
「そうそう。 コンビニで働いてらっしゃるお坊ちゃんよ。」 俺はしれっと自分を指差してみる。
 ところがどっこい、やつは見ない振りをしてトイレに行っちまった。 ちきしょうめ!

 1時間ほどして「風呂沸いたぞ。」って言ってみる。 「あらそう。 ありがと。」
それだけ言って芳江は本を読み進めている。 「また本か、、、。」
「何か言った?」 「なーーーーんにもねえよ。」
 頬っぺたを膨らませると俺は風呂に飛び込んで天井を仰ぐ。 (何であんなのを捕まえたのかなあ? 泣かれたからとはいえもっといいやつは他にも居たのに。。)
今夜も一人で湯を浴びては体を洗い、懐かしそうに天井を見上げている。 芳江が来る気配は無い。
 「またまた本にのめり込んでるんだろうなあ。 何かやりだすと終わるまで動かないからなあ。」 ブツブツ言いながらパジャマを着て寝室へ、、、。
途中で居間を覗いてみると「あーら、もう上がったの?」っていう声が聞こえた。
「上がったけど何か?」 「冷たいのねえ。 終わるまで待ってくれたっていいじゃない。」
「待ってたら冷めちまうわ。」 「沸かせばいいじゃないよ。」
「お姫様のために何回も沸かすのか?」 「いいわよ。 入ってくるから!」
 そう言って今夜も芳江は風呂へ飛んでいくのであります。 時間を見計らって俺も入ってみようかな。
 「あらあら、何しに来たの?」 「背中でも流そうかと思って。」
「あーらごめんなさいねえ。 可愛がってくれるの?」 「た、ま、に、は、ね。」
「たまにはって何よ? たまにはって?」 「まあまあ怒らない怒らない。」
 俺はそう言いながら芳江を座らせて背中を流すのでありますよ。 はーーーあ、誰か代わってくれ!
 なぜかそんな時は風呂の中でイチャイチャするのだ。 そしてまたこれも当然のことのように夫婦の営みもやっちゃうわけね。
「ああもう、疲れたじゃないの。」 「知らねえよ。 お前から飛び込んできたんだろうが。」
「また私なの?」 「たまにはご主人様の言うことを聞いたらどうなんだよ?」
「分かった。 分かったわよ。」 今にも割れそうな風船みたいな顔で芳江は俺を睨み付けるのであります。
 「睨んだって怖くないぞ。」 「すいませんねえ。 お多福なんで。」
「自分で言うなっての。」 笑いながら脇をツンツンしてみる。
 「寝ましょうねえ。 お坊ちゃん。」 「またそれかよ。」
「いいじゃない。 ねえ、ダーリン。」 「きも、、、。」
 今夜も俺たちはこうして布団の中で弄り合うのでした。 負けそう、、、。
「こっち向いてよ。」 「向いて何するの?」
「何でもいいだろう? 向けよ。」 「何するか言わなきゃ向かない。」
「面倒しいやつだなあ。 もういい。 お休み。」 俺が寝てしまうとあいつは寂しそうな顔をしてくっ付いてくるんだ。
 でもね、その夜はそのまま寝ちゃったのよ。 たまには無視してもいいかと思って。

 そんな次の朝、、、。 「そういえばさあ、山田さんちの火事はどうなったよ?」
「どうなったって?」 「あれから何も言ってこないけど、、、。」
 「さあねえ。 私も聞いてないから分かんないわよ。」 「店の傍なのにか?」
「傍でも何でもいいでしょう。 山田さんも引っ越すらしいし警察も犯人は分からないって言ってるし、、、。」 「冷たいもんだなあ。」
「だって、いちいち関わってられないじゃない。 仕事だって有るんだし。」 「町内会のことじゃあ仕事をほったらかしてでも飛んでいくお前がか?」
「町内会は町内会。 山田さんは山田さん。」 「はいはい。 ご都合主義でいいですなあ。」
「何よ。 あなたは何もしないくせに。」 そう言うと芳江は身支度を整えて出掛けて行った。
 町のことは大事で個人のことはどうでもいい。 そんなの有り? それじゃあ町が壊れちまうぞ。
住民が居るから町が在るんだろう? 町が在るから住民が居るわけじゃないんだ。
 特にね、町内会みたいに偉そうな顔をしている連中ほどそう思ってるんだよなあ。 あいつらどうかしてるぜ。
 ブツブツ言いながら朝食を済ませて庭へ出る。 草むしりでもするかな。
パンジーだとか百日紅だとか植えてはみるけど育てないんだよなあ あいつ。 だから俺が水やりから草むしりまでやってるわけ。
 たまに庭に出るのもいいもんだ。 天気もいいし最高だぜ。
「よう、今日は庭のお手入れですか?」 「何だよ?」
 「こないだの決着を付けようぜ。」 「まだ懲りねえのか。 ゴキブリ野郎目。」
「ゴキブリとは何だ! 掛かって来い!」 「やめとけよ。 喧嘩はしたくないんでね。」
「何を坊ちゃんぶってるんだ? 負けるからやらないんだろう?」 「お前なんてさ、一発で片付けてやるよ。」
「言ったなあ! この野郎!」 太郎が飛び掛かってくるもんだから俺は身を交わして腹に一発、、、。
「うわーーーーーーー!」 すっ飛んだ勢いで太郎はどぶに嵌ってしまった。
 「場所も考えないで突っ込んでくるからだ。 馬鹿。」 「何だと? もう一回言ってみろ!」
「ほらほら、お前の彼女が迎えに来てるぜ。」 「ギャーーー、母ちゃん!」
 ほんとにしょうもねえやつだぜ。 俺には偉そうに言うくせに母ちゃんには歯向かえないんだからなあ。
まあね、あの母ちゃんじゃア立ち向かえないだろう。 元女子柔道の選手だったんだもん。
取り敢えず騒ぎが収まったところで俺も準備してバイトに行きますか。