青春のたまり場 路地裏ワンウェイボーイ

 「てめえのおかげでどえらい目に遭っちまっただろうがよ! 決着を付けようぜ!」 「その顔でか? やめとけよ。」
「何だと? のぼせやがって!」 「のぼせてんのはお前のほうだろうがよ。」
「うるせえ!」 太郎が飛び掛かってきた。
 ヒョイット身を交わして腹に蹴りを一発。 「アグーーーーーーーー!」
そう言ってひっくり返った太郎を放置して店に戻る。 コーヒーを飲んでいたら駐車場で声が聞こえた。
 (誰だろう?)と思って顔を出してみると片岡さんが煙草を吹かしながら太郎を蹴飛ばしているのが見えた。 「容赦ねえなあ。」
「これでいいだろう。 屑はお巡りさんにでも拾ってもらえばいい。」 その後で片岡さんは店に入ってきた。
 「あいつ、まだ転がってたのか?」 「いやいや、あの後で俺に掛かってきたから腹に蹴りを入れてやったら伸びたんですよ。」
「ほう、そんな根性が有ったのか?」 「でもあれじゃあ喧嘩にはなりませんね。」
「ああ。 あいつはただのうるせえガキだよ。」 「後で母親が捕りに来るんじゃないですか?」 「たぶんな。」
 片岡さんも太郎の処分にはほとほと手を焼いているらしいけど、、、。
でもまあ何でこんな分からず屋がこの町に居るのかねえ? それはこの町の七不思議かもね。
夕方になるとたまに自転車がやってくる。 パープー パープー。
「豆腐は要らんかねえ? 豆腐ーーーー! 豆腐ーーーー!」
 手作りの美味い豆腐を打って歩く孝彦じいさんだ。
このじいさんは絹漉豆腐しか売らんのだがそれにしてはよく売れるらしい。 芳江もたまに買ってくる。
 「あの豆腐さあお店のやつより美味しいのよ。」 なんて悔しそうな顔で話してくる。
「じゃあさあ豆腐屋の嫁になればいいじゃんか。」 「私、豆腐じゃないから。」
「ほう、豆腐じゃないってどうして分かるんだ?」 「それはその、、、。」
 でもでもでも豆腐を食べてると確かに美味しいんだよ。 ぜんぜん違うなあ。
何処がどうって聞かれたらちょいと困るんだけどさあ。
 「今夜も豆腐を食べたいな。」 そう思ったからじいさんを呼び止めて二つ買った。
家に帰ると豆腐は冷蔵庫の中に、、、。 ついでに俺は居間でゴロゴロしてまーす。
 そしたら誰か家に訪ねてきた。 「こんちはーーーー。」
「あの声は、、、。」 出てみると太郎の母ちゃんだ。
 「昼間はすいませんでしたねえ。 あのバカが押し掛けたりして。」 「いいんですよ。 いつものことですから。」
「どうしていいのか分からないのよ。 あそこまで馬鹿だとは思わなくて。」 「俺たちも相当に苦しんでました。 片岡さんも焼きを入れてくれたからしばらくはおとなしいでしょうねえ。」
「とは思うけどさあ、太郎は諦めが悪いから、、、。」 「30年 あいつにぶら下がられて俺たちも苦しんでましたよ。 これからはどうするんでしょうねえ?」
「そろそろ太郎に土方でもやらせようかと、、、。」 「それは無理でしょう。 あいつは我慢なんか出来ませんよ。」
「それもそうよねえ。 片岡さんと話してくるわ。」 そう言っておばさんは帰っていった。
 みんな太郎のことじゃあ頭を抱えてるんだなあ。 土方か、あいつにやれるかなあ?
そろそろ5時になる。 夕日がきれいに沈んでいくのが見える。
「明日もいい天気だなあ。 客も多そうだ。」 俺は台所に立った。
 んでもって煮物を作っていると芳江が帰ってきた。 「美味しそうな匂いねえ。」
「今夜は煮物でございますよ。 芳江様。」 「まあまあよそよそしくなっちゃってどうしたのよ?」
「お嬢様にはこのほうがいいかと思いましてなあ。」 「だからお嬢様はやめてって言ってるでしょう? 何回言ったら分かるの?」
「ワー、怖い怖い。 お嬢様が怒ったわ。」 「だから、、、。」
 芳江はプイっと横を向いて自分の部屋に行ってしまった。 「あいつ、顔は丸いけどすぐ怒るんだよなあ。」
鍋の様子を見てみる。 いい具合に煮詰まってきたようだ。
 豆腐に白菜、大根にジャガイモ、ナスにニンジンに豚肉、、、けっこう居れたなあ。
鰹出汁に味醂と醤油、そして仕上げに三温糖。 お椀に入れる前に刻みネギを散らしましょうか。
 湯気もいい感じだし美味そうだし出来栄えは最高だなあ。 「芳江様 お夕食ですわよ。」
「きもい。 やめてってば。」 「お前が態度を変えるまでこうするぞ。」
「あっそう。 じゃあ実家に帰るわ。」 「へえ、帰れるのかなあ?」
「帰れるわよ。 いつだって。」 そこへ電話が、、、。
 「もしもし、、、。」 掛けてきたのは芳江の親父さんだ。
何も言わずに受話器を渡す。 「うん。 うん。 分かった。」
「何だって?」 「一郎さんを怒らせないようにするんだぞって言われちゃった。」
「いつも怒らせてるお前がか?」 「悪かったわよ。 謝るから可愛がってよ。」
「はいはい。」 「何よ その憎たらしい返事は。」
「また怒るぞ。」 「分かった。 分かったからご飯食べさせてよ。」
「しゃあねえなあ。」 今夜もこうして俺たちは互いを突き合うのであります。
飽きないもんだなあ 夫婦って。
 そんでもっていつものように俺が風呂を沸かすのね。 芳江が沸かしてるところを見たことは無いんだよなあ。
まあいいけどさあ、真ん丸いあの顔で甘えてくるから、、、。 「ねえねえ、あなた お風呂沸いた?」
「今沸かしておりますが。」 「そっか。 ごめんごめん。」
「いいご身分だねえ。 たまには沸かしてよ。」
「難しいから私には出来ないわ。」 「そう言ってすぐ逃げる。」
「ごめんねえ。 甘えさせてあげるから許して。」 って芳江が近付いて来たから熱く熱くキスを差し上げました。
 「何 ポーっとしてるんだよ?」 「あなたがいきなりキスするからよ。」
「してほしかったんだろう?」 「そりゃまあ、なんというか、、、。」
「してほしかったって言いなさい。」 「してほしかったの。 私。」
「素直でよろしい。」 「威張らないでよ。」
「いつものことだ。」 「んもう、、、。」
 それから30分ほどして、、、。 「芳江、風呂沸いたぜ。」
「何 かっこ付けてるのよ?」 「うっせえなあ。 ああすればこう言う。 こうすればああ言う。」
「ごめんなさい。 どうしたの?」 「沸いたぞって話。」
「知ってるわよ。 ずっと見てたから。」
「また親父さんに叱ってもらおうかなあ?」 「やだやだ。 それだけはやめて。」
「じゃあ可愛くしてろよ。」 「分かった。」
 芳江はそれから俺の後を付いてくるんですわ。 「亭主の影を踏んじゃいけないってお父さんは言ってたわよね。」
ブツブツ言いながら付いてきます。 お風呂でも買い物でも、、、。
 そんなある水曜日のこと。 仕事をしているとまたまた太郎が飛び込んできましたわ。
「やいやい‼ いつになったら決着を付けるんだ‼」 「だからうるさいんだって。 何回言っても分からんなあ。」
「てめえ、そんなことを言って逃げる気だな? かかってこい!」 「うるせえなあ。 仕事中なんだよ。 どっか行ってろよ。」
「なんだと? てめえ、そうやって逃げる気だな?」 「逃げも隠れもしないけど仕事中だっての。」
 俺と太郎が言い合っている所へ芳江が入ってきた。 「何? この人?」
「さあさあどうするんだ? 決着を付けるのか付けねえのかどっちだ‼」 「うっせえなあ。 仕事中だって言ってるだろう? 出て行けよ。」
「坊ちゃん面したって怖くも痒くもないんだぜ。 かかってこい!」 「ほんとにうっせえやつだなあ。」
 ペットボトルを探していた吉江がレジへ来た時だった。 「てめえ、いい加減にしろ!」
そう言って太郎が突っ込んできたから大変。 思い切り突き飛ばしたのは芳江だった。
「キャーーーーーーー!」 その日名に驚いて近くを歩いていた実が飛んできた。
「どうしたんだ? おい‼」 「ああ、実る。 警察を呼んでくれ。 嫁が太郎に突き飛ばされたんだ。」
「分かった。 電話借りるぞ。」 実が電話を掛けている間、俺は芳江を奥の部屋に連れて行って見守ることにした。
 太郎はというと悲鳴を聞いた瞬間に店を飛び出してどっかへ行っちまったらしい。 「大丈夫か?」
「あなたも大変ね。 あんなのに絡まれてて。」 「やっと分かった?」
「今まで知らなかったわ。 太郎君に絡まれてたなんて、、、。」 「ケガは無いか?」
「飛ばされた時に肩を打ったみたい。」 「分かった。 整形で診てもらおう。」
 実の話ではその後に警察がやってきていろいろと話を聞いていったらしい。 傷害事件で逮捕するとのことだ。
芳江のほうも強く打っただけで骨折も何も無いらしい。 俺も仕事をバイト君に任せて家に帰ってきた。
 「毎日大変だったのね?」 「ああ。 あいつは時間も場所も関係無く飛んできてたからな。」
「言ってくれたら良かったのに。」 「お前に言ってもどうしようもないよ。 あいつはこの町の問題児なんだから。」
「そうかもしれないけど、私だってあなたが苦しんでるのを見たくないもの。」 「今まで喜んでたんだろう?」
「そんなこと無いわよ。 馬鹿。 いてててて、、、。」 「だからおとなしくしてな。 明日も傍に居るから。」
「いいわよ。 子供じゃないんだから。」 「こういう時は子供になりなさい。」
「ごめん。 ありがとう。」 初めて芳江は俺に笑った気がするなあ。
いつもはプライド高い系なのにおかしいなあ。 まったくよ、、、。