頬をつねってみる。
 ……あんまり痛くないな。
 叩いてみるか?
 両頬を力強く叩いてみる。

「いてっ! やっぱ、痛いわ〜!」

 夢じゃない。夢じゃないんだ! 俺と結衣子の子供が出来た!
 言い表せない幸福感がじわじわと持ち上がってくる。
 俺の子種が、結衣子の腹に、卵に、根付いたのか……。
 うわー! リアルに嬉しいぞ!
 ニヤける顔が元に戻らない。

「亮平? どうしたの?」

 俺の愛する妻。可愛い可愛い奥さんが、顔を覗き込む。

「ご飯出来たよ。遅くなってごめんね。パスタとサラダだけになっちゃった」

 申し訳なさそうに伝えてくる。

「本当は、ちゃんとしたディナーにしたかったのよ? ノンアルコールのスパークリングワインも買って、お祝いしようと思ってたのに」

 ごめんね? と、謝ってくる。
 産婦人科が混んでいて、帰る時間が遅くなった。すでに夜の8時を回っている。

「ぜんぜんっ! 別に作らなくても良かったんだ。お義母さんのとこに行っても良かったし」
「今日は亮平と2人だけでお祝いしたかったの。亮平と私の赤ちゃんだよ。今までは夫婦二人だったの。でも、今日からは三人よ。すっごく小さいけど、ここにいるの。私達、この子を通して本当の家族になるのよ。今日はその最初の特別な日。だから二人で過ごしたいの。うちのお母さんには明日言いに行くわ」

 結衣子の実家はすぐ隣。言っておけばいつでも食事を用意してくれる。