「親父達が引退してハワイに移住した時、俺、本当は実家に戻ろうかと思ったんだ。高校生とは言え、あの屋敷に一人暮らしって言うのは不安だったから。でも仕事も転職して、いきなり役員の仕事を押し付けられたり、同時に美咲の妊娠がわかって……。生活基盤を移す余裕がなかった。そんな時、枚岡のおじさんが会いにきてくれたんだ」
「うちの父が?」
「そう。『純くんは新しい家族を迎える。仕事だって若いのに全部引き受けた。今は自分のことに集中したらいい。こっちのことは気にしなくていい。亮平は俺たちが育てたようなものだから、ちゃんと面倒みるよ。安心していい』そう言ってくれた」
「……! おじさん、そんな事を……」

 亮平も知らなかったんだ。

「本当に感謝してる。こんなに立派に育ててもらって。結衣ちゃんに言うのもおかしいけどね。でもね、だからこそ、あの屋敷は二人に住んでほしいんだ。あそこは2人の新居に一番ふさわしい。隣が枚岡家だ。二人とも安心して子育てが出来るぞ。これは親父達と有紗、みんなの総意なんだ。少し古くなってるから、水回りとか気になるところはリフォームすれば良い。それに、家族が増えることを考えて、間取りを変えたければ相談にも乗るよ。……だから結衣ちゃん、二人で住んでくれるかい?」