俺にはトラウマがある――。
 
 俺には歳の離れた兄と姉がいる。

 兄とは13歳、姉とは12歳離れていて、両親が子育てにひと段落した頃、予定外にぽこっと出来た子供だった。

 父の実家は地元で最大手の不動産屋、藤田コーポレーションを経営していた。
 母は企業弁護士として藤田コーポレーションに入社後、当時専務だった父と恋に落ち兄を妊娠した。兄を出産後年子で姉を生み、すぐに職場復帰したため、兄姉はほぼ祖父母の手によって育てられた。
 
 ところが俺が生まれた頃には祖母が他界していたので、末っ子の俺は母が育てざるを得なかった。
 残念なことに母は典型的なキャリアウーマンだったため、母親業の方はかなりお粗末なものだった。

 俺が小学校の頃はたまに思い立ち、なぜか透明感のあるカレーを作ったりすることもあったが、中学に上がってからほぼ手料理をふるまうこともなくなっていた。

 週の半分はデパ地下惣菜。残りの日々は、家政婦の手料理か麻衣子おばさんの手料理で俺は育った。

 まあ、それでも仕事をセーブして子育てしてくれたのだ。母なりに努力はしてくれたのだろう。
 
 兄は就職と同時に家を出て、自社物件であるタワーマンションのペントハウスに住み始めた。今では義姉と甥の3人暮らしだ。
 藤田コーポレーションは現在、兄が継ぎ代表取締役を務めている。