「え?」

「そんなことあったっけ?」


少し、妙な空気が流れる中、言葉を返した紗南と晴樹は、不思議そうに思い出を探していた。

だけどきっと、彼女たちにはその思い出は存在しない。


「えー?あったよ、場所とか、そんなに覚えてないけど…ほら、丁度こんな季節に」

「小学生とか、結構前の話?」

「いや、うーん。そんなに前じゃない気がするけど…分かんないや!」


あははと笑った菜摘に、私は何も言えなかった。


さっき、これでいいのだと納得した。

その、考えだけの納得は、全く意味を成さず、私の心を飲み込んでいく。


「でもね、覚えてる。今日みたいな綺麗な夏の星空の下で、手持ち花火をしたの。すっごく楽しくて、幸せな思い出。
なんか、今急に思い出した。」


そう話した菜摘が、あまりにも幸せそうな、愛おしそうな顔をするから、私は今にも涙が溢れ出しそうになった。