「ズブズブにはめて落として抜け出せなくしてやる」



 ぞくりと、背筋に冷たいものが走った



「な……なに、言って、」

「俺を本気にさせたらどうなるか教えてあげる。 覚悟しといて……」


 ダメ押しに耳を甘噛みされて、腰が砕けそうになる。


「……ね?」


 不気味なほど優しい声と、黒い笑顔。


「っ、」


 このままここに居たら再起不能にされる予感がした。


「しっ、失礼します!!」


 大きな声で言うと、長嶺さんはあっけなく離れて「はーい」と能天気な返事をした。

 私は振り返らずに勢いよくドアをあけて廊下に出ると、熱くなった顔を冷ますように風を切って早歩きする。



――悪いけど もう逃がす気ないから



 …… どうやら私は、上司のドSスイッチを押してしまったらしかった。



「っ、」



 熱くなった顔は冷めるどころか、さらに熱くなっていく。

 心臓のドキドキはおさまる気配がない。



 ……どうしよう、どうしよう。


 まったくあらがえる気がしない。