長嶺さん、大丈夫ですか?

「こんばんは」

 横から声をかけられてビクッと肩が跳ねる。
 顔を向けると、初対面とは思えないほど緊張感のない優しい笑顔の男性がいた。
 身長も歳も、長嶺さんと同じぐらいだろうか。
 髪のサイドを刈り上げたツーブロック、整えられたあご髭に、こめかみや耳の軟骨についたピアス、首筋のタトゥーがその人のやんちゃさを物語っている。
 それでもその甘い笑顔が悪い人には見えなくて、私は小さく会釈した。

「こんばんは……」

 その人は私にくっつきそうなほど近い距離で、私と同じように壁に背中をつけた。 甘く、どこかスパイシーな香水がふわりと漂う。

「一人で来たの?」

 その人はウィスキーか何かが入ったお酒の氷をカランと鳴らす。

「はい」

「あ、一緒だ。俺今日友達にドタキャンされちゃってさー。一人だと寂しくない?一緒に飲みながら話そうよ」

「はあ」

 私は濁った返しをしながら、イケメンなんだから他に話しかけるべき女性はたくさんいそうなのになんでわざわざ私みたいな場違い女子に話しかけるのだろうと勘繰る。

「俺は太一ね。君は?」

「……理子です」

 名前を言うと、太一と名乗ったその人はなぜか私の顔を見たまま一時停止した。

「……理子?」

「? はい」

「……へえ。可愛い名前」

 ニコッと笑った太一さんは、手に持っていたグラスをそこのテーブルに置いて煙草に火をつけた。