アンはぼんやりミカエルに抱き起こされて抱き締められたと思ったら、御者にドアがノックされた。アンがビクつくとミカエルが平然と声を返す。


「開けるなよ、開けたら殺す」


ドアの向こうの気配が察しましたと去って行く。膝の上にアンを抱えて抱き締め直したミカエルは、真っ赤に熟れたままのアンを見つめて目も口も全部緩ませた。


「アン、着いたぞ。大丈夫か」

「だいじょばない……」

「熟れ熟れのアン、色っぽいからお前の部屋で今から抱いていい?」

「そ、それはダメ!」


またキスしようとするミカエルを両手で押し返すと、ミカエルはその弱い力に従ってくれた。ミカエルは口では強引だが、無理やり身体で嫌なことをしてきたことは一切ない。そこは紳士だ。

しっかり腰を支えられて馬車を下りると、ミカエルはアンの耳元に囁いた。


「お前に合わせてゆっくりヤってやるよ」

「うるさいよ!!」

「ハハッ、かわい」


アンを支えて部屋まで送り届けるミカエルのゴキゲンは最高潮だった。


(信じて、いいんだよね)


アンも悪役令嬢ではなく、ただの公爵令嬢として、ミカエルの隣に並べる甘い夢を……見てしまった。