ふと、視線を下げると
俺の服をギュッ、と掴む女の右手首に手錠のアザがくっきりと残っているのが見えた。









その日

俺は、手錠をゴミ箱に捨てた。



……別に気まぐれだ。意味なんてない。

洗面所で耳たぶを洗う。

ジャーッ!と勢いよく流れ出る水が鼓膜に刺さる。

パシャパシャ、と飛ぶ水しぶきが軽く頬にまでかかる。

顔を上げて鏡を見つめると、情けなさすぎる自分と目が合った。

なんだよこいつ……。

顔が赤い。

カミカミチュパチュパされてない方の耳も赤い。

全身が火照るような感覚が薄気味悪くて手のひらに水を貯めて顔に勢いよくぶっ掛けた。

そうした所で火照りは止まない。

前髪から滴り落ちる雫がポタポタ、と地面に落下する。

悔しくて、なのか、不甲斐なくて、なのか。

やがてそんなよく分からない涙まで、後に続いて落下し始めた。

立っていられなくなって、へたり込むようにその場にしゃがむと、震える手が何かを抑えるかのように、口元を覆った。

覆った所で、何かは抑えることが出来なかったらしい。

その瞬間、俺の心の中で……

本音らしき…。弱音らしき…。

何かがボトッ、と鈍く落ちるのを感じた。






​どうしよ​…

俺、この女のこと……





















殺せないかもしれない​───────。