わたしは、お兄ちゃん、女王陛下、剣の守護者様に連れて行かれて、お城の中に入った。



(本当なら、平民であるわたしはお城に入れない決まりなのに――大丈夫なのかな)



 同じ平民でも、騎士であるお兄ちゃんは入城が出来るのだが、わたしは本当にただの平民でしかない――。



 お城の中では、間延びした喋り方をするメイドさんとわたしは出会った。

 彼女は黒い髪をツインテールにしていて、ちょっと小動物を思わせる顔をしている。



「ネロさんの妹のマリアさん、女王陛下からうかがってますよ~~綺麗にして差し上げますからね~~」



(メイド仲間――)



 わたしは、彼女に対してちょっとだけ親近感がわいた。

 ただ、彼女の身に着けている黒いワンピースの丈が気になる――。



(わたしは、膝からくるぶしまでの丈の黒いワンピースで……それでも丈が短いかなと思っていたんだけど……)



 彼女が着ている黒いワンピースのスカートはひざ丈だったのだ。



(女王陛下付きのメイドさんとうかがったけど、なんだか変わった感じがするかたね……)



「マリアさんは、ネロさんと違ってちゃらちゃらなさってないんですね~~着飾ると可愛らしくなるので、楽しいです~~」



 気づいた時には、わたしはメイドさんから、可愛らしいピンク色のチュールのドレスを着せられていた。胸元は大きく開いていて、縁をひらひらとしたレースが飾っている。ふんわりとしたパフスリーブの袖も可愛らしい形で――わたしの胸はときめいてしまった。



「なんだか、わたし、お姫様になった気分です――」



 鏡の前に立って、自分の姿にうっとりしてしまう。



(は――! ドレスが可愛いのであって、わたしが可愛いんじゃないけどね――)



 ちょっと癖で卑屈になりつつも、鏡の中の着飾った自分を見ると、なんだか心があたたまるようだった。



 コンコンと音がすると、部屋の中に女王陛下が現れる。

今日の彼女は、亜麻色の長い髪を頭の上で結っていて、紫色の裾の長いドレスを着ている。私の着ているドレスとは違って、少し大人っぽい装いだった。



「マリアさん、とっても可愛らしいわ――」



「女王陛下、ありがとうございます。こんなに可愛い格好をさせていただけて――私、とっても嬉しいです」



 わたしがそう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。



「マリアさんが、元々素敵だからよ――」



(本当に、女王陛下は噂通り、貴族だとか平民だとかで差別をする人ではないのね――)



「準備は出来たわね。さっそく、私についてきてくれるかしら?」



 そう言われて、わたしは女王陛下の後をついて歩いた。

 彼女の背中に向かって問いかける。



「どちらに向かわれるのですか?」



 わたしの問いに、女王陛下は振り返る。そうして、最上の笑みを浮かべながら教えてくれた。



「大広間よ――」



「大広間?」



「ええ、十年ほど前に、テオドール伯爵のお父様が摘発された場所――」



(テオドール様が、城に来るのが怖くなった理由の事件があった場所――。若い頃のテオドール様は、かなり恐ろしい気持ちをされたに違いない――)



「私、テオドール伯爵にも、貴族の役割として城に出てきてほしいなって、ずっと思っていたのよね――。さあ、ついたわアリアさん――」



 わたしが前方を見ると、とても大きな扉が見えた。

 扉の前には、わたしのお兄ちゃんと剣の守護者様が、扉をはさむように立っている。

 

 女王陛下が、二人に命じた。





「扉を開けてちょうだい――」





 重厚な扉が、ぎぎぎと音を立てて開いていく――。





(うわあ――)





 部屋の天井には、豪華なシャンデリアが飾られており、キラキラとした光を放っていた。

 周囲は赤やピンク、黄色に水色といった可愛らしい薔薇がところせましと飾られていて、ふんわりと薔薇の良い香りが漂っている。

 床は綺麗に磨かれていて、シャンデリアの光を反射していた。





(絵本で見た、貴族の人たちが踊ったりする場所そのままだわ――とっても素敵――)



 だけど、女王陛下がなぜ、この場所にわたしを連れてきたのかが分からない。



 わたしが不思議に思っていると――。





「アリア――」





 広間の奥から、聞き覚えのある男性の声がわたしの耳に届いたのでした――。