(姉弟の仲直りのチャンスを逃すわけにはいかない……!)

 足が速いわけじゃないけど、全力疾走した。
 門を抜けた先は、坂道である。

「待ってください、お姉さま! って、ぐぎゃっ……!」

 何もない場所だけど、坂に差し掛かった瞬間に、つまづいてしまった。
 そのまま坂下にスライディングしてしまう。
 滑り落ちた私は、美人さんの足下に到着する格好となった。

「何……!?」

 美人さんもといテオドール様のお姉さまは、若干引き気味だった。

「いたた、ただでさえ低い鼻が……潰れた……」

 鼻先をすりむいてしまったし、身体のあちこちが痛いけれど、追いつけたので良しとする。
 とりあえず横座りの態勢になると、美人を見上げた。

「お姉さま、テオドール様のことが好きなんでしょう!?」

「!?」

 突然質問をされて、美人も困惑しているようだったが、ぽつぽつと語りはじめた。

「私があの子の姉だって知ってるってことは、私が過去に何をやったか気づいているんでしょう?」

「それは……」

 あまり良い評判ではなかった。

「自分のことしか考えきれなかったから、結果的に家族を不幸にしてしまったわ。あの子なんて、これから先輝かしい未来が待ってたかもしれないのに。私のせいで人生台無し。私はあの子に恨まれたって仕方がないのよ」

 ふいっと遠くを見る美人の横顔には、後悔が滲んでいる。

「テオドール様、お家の爵位は下がっちゃいましたけど、ちゃんと魔術研究所で黙々と頑張っています! もう大人の人だから、お姉さんの評判とかお家の評価とか関係なく、自分の力で立ち上がって頑張ってらっしゃいます!」

「だったら、なおのこと、あの子の足を引っ張るわけにはいかないわ。私がいても邪魔なだけ……」

「お姉さま、人間ですもの、過ちを犯すことはあると思うんです! うっかり発言なんて、私はいつもしちゃいます! それに、どんな人でも邪魔なことなんてありません!」

「そういうのは、もういいのよ。私は自分のことしか考えきれない人間だった。良いところなんて一つだってないのだから……」

「それです!」

 私はピンときた。

「え?」

「お姉さんの良いところは、弟のテオドール様思いのところです!! 」

「…………っ……そんな、ことは……」

「だって、自分が相手に迷惑をかけるかもしれないって、テオドール様とは会わずにいたわけでしょう? お姉さまが犯罪を犯したわけじゃありませんっ、過去に何かやらかしたとしても、絶対にやり直せるはずなんです!!」

 その時――

「アリア、姉上……アリア、俺にも姉上と話をさせてほしい」