忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 数日後。

「大学どう?」

 丈に聞かれて、亜美は頷いた。

「楽しい」

「へえ」

「何その反応」

「いや。ちゃんと友達できそう?」

「群司いるし」

「群司以外」

「…………」

「その顔は?」

「まだ」

「やっぱり」

「これからだから」

「はいはい」

「先生、馬鹿にしてる?」

「してないよ」

 丈が笑う。

 高校を卒業しても。

 大学生になっても。

 ここは変わらない。

 丈と話していると、そんな気がした。

「そういえば」

「何?」

「ダンスサークル見に行く」

「亜美が?」

「群司が」

「ああ」

「一緒に来てって言われた」

「入るの?」

「私は入らないよ」

「そうなんだ」

「見るだけ」

「ふうん」

 丈が亜美を見る。

「大学生らしくなってきたね」

「まだ何もしてない」

「でも楽しそう」

「うん」

 亜美は笑った。

「楽しいよ」

「そっか」

 丈も笑った。

「よかったね」

「うん」

 少しだけ沈黙する。

 亜美は丈を見る。

「先生」

「何?」

「今日しないの?」

「…………」

 丈が一瞬、黙った。

「何を?」

「分かってるでしょ」

「ちゃんと言わないと分からないな」

「絶対分かってる」

「分からない」

「…………」

 亜美は丈を見つめる。

 からかわれている。

 分かっていた。

「キス」

「うん」

「して」

 口にしても、もう恥ずかしくなかった。

 丈は少しだけ目を細める。

「亜美」

「何?」

「今は『して』なんだ」

 亜美にはよく分からなかった。

 したいと思った。

 だから、言った。

 それだけ。

「じゃあ、しないの?」

「するよ」

 丈が笑った。

 そして。

 二人きりの場所で、唇が重なった。

「…………」

 最初に教えてもらったときとは違う。

 もう驚かない。

 どうすればいいのかも、少し分かる。

 唇が離れる。

 亜美はそのまま丈を見た。

「……何?」

「いや」

 丈が少し笑った。

「本当に慣れたね」

「先生が教えたんでしょ」

「そうだけど」

「じゃあいいじゃん」

「いいのかな」

「何が?」

「何でもない」

「変なの」

 亜美は首を傾げた。

 丈はそれ以上、何も言わなかった。

 亜美にとって、丈とのキスはもう初めてのときほど特別なものではなかった。

 誰かに見せるものではない。

 誰かに話すことでもない。

 でも、丈と二人なら。

 してもいい。

 したいと思ったら、してもらえばいい。

 それくらい自然なことになり始めていた。