忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 入学式。

 広い会場に、新入生が並んで座っている。

 壇上から聞こえてくる言葉を聞きながら、亜美はそっと息を吐いた。

 大学生になった。

 本当に。

 今日から。

「…………」

 ふと、幸也のことを考えた。

 今、この大学のどこかにいる。

 同じ敷地の中を歩いて、同じ大学の学生として過ごす。

 それだけなのに、胸の奥がそわそわする。

 会えるかな。

 今日。

 それとも、明日。

 また、あの音を聴けるかな。

 キーボードの前に座っていた幸也を思い出す。

 柔らかな音。

 鍵盤の上を動く指。

 話しかけてくれた声。

「…………」

 会いたい。

 高校生の頃は、ずっと遠かった。

 でも今は、同じ大学にいる。

 その事実だけで、胸が高鳴った。

「亜美」

「……え?」

 隣から小さな声がした。

「終わったぞ」

「え?」

「話」

「あ」

 周りの学生が立ち始めている。

「聞いてなかっただろ」

「聞いてた」

「嘘つけ」

「聞いてたよ」

「じゃあ最後何言ってた?」

「…………」

「ほら」

「群司うるさい」

「俺が悪いの?」

 群司が笑う。

 亜美もつられて笑った。

 何を考えていたのかまでは、群司は聞かなかった。