忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 四月。

 誠星大学。

 正門の前で、亜美は足を止めた。

「…………」

 春の風が、長い黒髪を揺らす。

 見覚えのある景色だった。

 高校生のとき、兄に連れられて初めて来た大学。

 キーボードの音に惹かれて、足を止めた部室。

 そこで幸也に出会った。

 二度しか会ったことのない人。

 それなのに、ずっと忘れられなかった人。

 もう一度会いたい。

 もっと話したい。

 もっと知りたい。

 その気持ちを追いかけて、ここまで来た。

「……来た」

 小さく呟く。

 本当に、誠星大学に来た。

「何一人で感動してんの」

「……っ!」

 突然後ろから声がして、亜美は振り返った。

「群司」

「おはよ」

「びっくりした」

「さっきからいたけど」

「声かけてよ」

「かけたじゃん」

「もっと早く」

「無茶言うなよ」

 群司が笑う。

 高校の制服ではない。

 黒いパンツに、シンプルなシャツ。

 見慣れているはずなのに、少しだけ違って見えた。

「群司、大学生っぽい」

「今日から大学生なんだから当たり前だろ」

「そうだけど」

「亜美もじゃん」

「私?」

「うん」

 群司が亜美を見る。

「…………」

「何?」

「いや」

「何」

「大学生っぽい」

「真似しないで」

「同じこと思っただけ」

「ほんと?」

「ほんと」

 群司はそう言って、少しだけ顔を逸らした。

 今日の亜美は、いつもと違う。

 制服じゃないから。

 それだけのはずなのに、高校生のときより少し大人びて見えて。

 まともに見ていると、なんとなく落ち着かない。

「……行くぞ」

「待って」

 群司が先に歩き出す。

 亜美もその隣に並んだ。

 正門の向こうには、たくさんの新入生がいる。

 知らない顔。

 知らない声。

 知らない場所。

 高校へ入学したときも、最初はこんな感じだった。

 新しい場所に少し緊張して。

 それでも、これから始まる毎日を楽しみにしていた。

 あの頃とは、いろいろなことが変わった。

 でも、今日は。

「人多いね」

「入学式だからな」

「迷いそう」

「お前、こういうとこ苦手そうだもんな」

「どういう意味?」

「そのままの意味」

「群司だって初めてでしょ」

「まあな」

「じゃあ一緒じゃん」

「俺は何とかなる」

「何その自信」

「亜美よりは」

「失礼」

 亜美が少し笑う。

「でも、群司も一緒だから大丈夫」

「…………」

「同じ学科だし」

「……そうだな」

「何?」

「何でもない」

 群司は前を向いた。

 たったそれだけの言葉なのに、嬉しくなる。

 亜美にとっては、きっと深い意味なんてない。

 知らない場所に、知っている友達がいる。

 それだけ。

 分かっているのに。

 ――群司も一緒だから大丈夫。

 頭の中でもう一度繰り返してしまう。

「群司?」

「何?」

「置いてくよ」

「お前が先行ったんだろ」

 群司は少し早足になって、亜美の隣へ戻った。