忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「…………」

 丈の表情が止まった。

「亜美」

「何?」

「それ、意味分かって言ってる?」

「分かってるよ」

「僕とキスするってことだよ」

「……うん」

「…………」

 亜美は不思議そうに丈を見る。

「先生ならいいよ」

「…………」

「先生だから、聞いてるんだよ」

 丈はしばらく何も言わなかった。

「……本当にいいの?」

「うん」

 亜美は素直に頷いた。

 そのあと。

 二人の間にあったはずの境界が、ひとつなくなった。

「…………」

 亜美はしばらく動けなかった。

 何が起きたのかは分かっている。

 ただ、想像していたものよりずっと良いものだった。

「……これが、キス?」

「そう」

「…………」

 亜美は自分の口元に触れそうになって、止めた。

 前に丈に言われたことを思い出したから。

 ――あんまり男の前でやらない方がいいよ。

 丈が少し笑った。

「何?」

「……何でもない」

「そう?」

「うん」

 初めてだった。

 ずっと幸也が好きだった。

 なのに。

 初めてキスをした相手は、幸也ではなかった。

「…………」

 少し、不思議だった。

 でも。

 嫌ではなかった。

 丈だから。

 自分のことをずっと知っている人だから。

 分からないことを教えてくれる人だから。

 だから、大丈夫。

 そう思った。

「先生」

「何?」

「もう一回」

「…………」

 丈の目が、ほんの少しだけ揺れた。

 亜美はただ、丈を見ていた。

 教えてもらったことを。

 もう一度。

 知りたいと思っただけだった。