忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 試験を終えてから、亜美が塾へ行く回数は減った。

 三年生の姿もほとんど見かけなくなり、代わりに自習室や廊下では、一、二年生の声が前よりよく耳に入るようになった。

 廊下を歩いていると。

 掲示板に貼られた一枚の紙が目に入った。

『大学生講師 アルバイト募集』

「…………」

 亜美は少しだけ足を止めた。

 大学生になったら。

 ここで働くのもいいかもしれない。

 そう思って。

 また歩き出した。

 そして、なぜか最近。

 その子たちの間で、ある話が流行っていた。

「初キスっていつだった?」

「え、何その質問」

「最近みんなで話してる」

「私はまだ」

「私も」

「でも彼氏できたらするでしょ?」

「それはするんじゃない?」

「…………」

 亜美は聞こえていないふりをして、参考書を見る。

 けれど、文字が頭に入ってこない。

 ――初キス。

 前に、丈に聞いたことがある。

 好きだったら、したくなるのか。

 あのときは、ただ知らなかったから聞いただけ。

 でも。

 もう高校生活は終わる。

 誠星大学に受かれば、春から大学生になる。

 幸也先輩と同じ大学に通う。

 もし、もっと仲良くなれたら。

 もし、好きになってもらえたら。

 もし、付き合えたら。

 その先は。

「…………」

 キス。

 考えた途端、顔が熱くなった。

 幸也先輩と、キス。

「……っ」

 無理。

 恥ずかしい。

 亜美は慌てて参考書へ目を落とした。

 でも、消えてくれない。

 もし本当にそんな日が来たら、どうしたらいいんだろう。

 何をすればいい?

 目は閉じる?

 どのくらい近づく?

 そもそも、どんな感じなんだろう。

「…………」

 分からない。

 何も分からない。

 急に、心細くなった。