忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 夏。

 受験勉強が本格的に始まった。

 学校、塾、家。

 夏期講習、参考書、過去問、模試。

 毎日、同じことの繰り返し。

 それなのに、結果はいつも同じではなかった。

「…………」

 模試の判定が下がった。

 分かっていたはずの問題を間違えた。

 解き直せばできる。

 だからこそ、悔しい。

 もっとできると思っていた。

 もっとやらないと。

「亜美」

「…………」

「亜美」

「何」

「帰りな」

「まだやる」

「もう十時」

「あと一問」

「それ、さっきも言った」

「…………」

 塾の自習室。

 丈が呆れたように立っている。

「明日も来るんでしょ」

「うん」

「寝不足で授業寝たら意味ないよ」

「でも」

「帰る」

「…………」

「亜美」

「分かった」

 しぶしぶ参考書を閉じる。

「最近焦りすぎ」

「だって」

「焦ってる?」

「……ちょっと」

「亜美、ちゃんとやってるよ」

「…………」

「僕が一番知ってる」

 その言葉が、思っていたより嬉しかった。

 毎日、自分では足りない気がする。

 もっとやらないと。

 もっと頑張らないと。

 そう思ってしまう。

 でも、丈がちゃんとやっていると言ってくれる。

 ずっと見てきた丈が、そう言ってくれる。

 それだけで、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。

「……先生がそう言うなら」

「うん」

「今日は帰る」

「最初からそうして」

「明日も来る」

「どうぞ」

「分からないところいっぱいある」

「持っておいで」

「あと」

「うん?」

「相談もある」

「また?」

「先生が相談しろって言ったんでしょ」

「そうでした」

 丈が笑う。

 亜美も笑った。