忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「幸也のため?」

「…………」

 塾で丈に聞かれて、亜美は参考書から顔を上げた。

「何が?」

「誠星大学」

「…………」

「違う?」

「違わない」

 あっさり答えると、丈が苦笑した。

「正直だね」

「先生は知ってることだし」

「まあね」

 丈は、亜美が幸也を好きになったときから知っている。

 だから、隠す必要もなかった。

「本当に追いかけるんだ」

「うん」

「まだそんなに話したこともないのに?」

「何回もそれ言う」

「だってすごいなと思って」

「変?」

「変とは言ってない」

「じゃあ何」

「一途」

「…………」

 その言葉が少しだけ恥ずかしくて、亜美は誤魔化すように参考書へ目を落とした。

「幸也が卒業するまでに間に合う?」

「間に合う」

「調べたんだ」

「もちろん」

「怖いな」

「何で!」

 丈が笑う。

 亜美はむっとした。

「でも」

 丈の声が少しだけ真面目になる。

「幸也だけで大学決めるのは駄目だよ」

「分かってる」

「本当に?」

「ちゃんと学科も調べた」

「うん」

「勉強したいこともある」

「そっか」

「それに」

 亜美は少し笑った。

「兄もいるし」

「直充さんね」

「うん」

「なら安心か」

「何が?」

「亜美が大学で迷子になっても回収してもらえる」

「ならない」

「なるでしょ」

「ならない」

「大学見学のとき迷ったじゃん」

「……あれは」

「ほら」

「先生、そういうことだけ覚えてるよね」

「亜美のこと結構知ってるから」

「…………」

 前にも聞いた言葉。

 でも、今はもうそれを聞いても何とも思わない。

 むしろ。

 そう。

 丈は、自分のことをよく知っている。

 学校のことも。

 群司のことも。

 幸也のことも。

 誰にも言えなかった、恥ずかしいことも。

 だから、何でも話せる。

「先生」

「ん?」

「受験勉強も見てね」

「僕、塾講師なんだけど」

「知ってる」

「それ仕事だから」

「じゃあちゃんと働いて」

「生意気になったね」

「先生のせい」

「何で僕?」

 亜美は笑った。