忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 塾を出る。

 夜風が少し冷たかった。

 亜美は駅へ向かいながら、さっきの会話を思い出す。

 恥ずかしかった。

 今思い出しても、顔が少し熱くなる。

 でも、嫌ではなかった。

 丈は、自分が知らないことを知っている。

 分からないことを聞けば、答えてくれる。

 誰にも言えないことを話しても、笑って終わらせてくれる。

「…………」

 学校では、群司といる自分がいる。

 笑って、音楽を聴いて、くだらない話をして。

 友達として過ごす自分。

 家では、直充の妹。

 そして、幸也先輩のことを考えて、一人で胸を高鳴らせる自分。

 でも。

 誰にも言えないくらい恥ずかしいことを考えている自分を、知っているのは丈だけだった。

 それが少しだけ、特別なことのように思えた。

 ――先生ならいい。

 自分で言った言葉を思い出す。

「…………」

 亜美は小さく笑った。

 大人になりたい。

 まだ、どうしたらなれるのか分からない。

 でも。

 分からなかったら、丈に聞けばいい。

 それはもう、亜美の中で恥ずかしいことではなくなり始めていた。