忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「そういえば」

 ある日、丈が何気なく言った。

「学校の友達には相談しないの?」

「…………」

 亜美の頭に群司が浮かんだ。

 最近は、屋上で昼を食べることが増えた。

 名前も、もうお互い呼び捨てになっている。

 群司は友達。

 学校で初めてできた、大切な友達。

 でも。

「無理」

「即答だね」

「群司には絶対言わない」

「何で?」

「何でって……」

 想像する。

『男の人って、どういう服が好きなの?』

 そんなことを群司に聞く自分。

「……無理」

「二回目」

「絶対変なこと言うもん」

「そういう子なの?」

「うん」

 たぶん、からかわれる。

 いや、意外と真面目に答えるかもしれない。

 でも、どちらにしても恥ずかしい。

「それに」

「うん?」

「群司には、こういう私知られたくない」

「…………」

 丈の目が亜美を見る。

「こういう私?」

「幸也先輩のことで悩んで」

「うん」

「大人になりたいとか思って」

「うん」

「変なこといっぱい調べて」

「うん」

「先生にこんなこと聞いてる私」

 亜美は少し恥ずかしくなって、視線を逸らした。

「学校では普通にしてたい」

「そっか」

「群司にも」

「うん」

「だから言わない」

「じゃあ」

 丈が少しだけ笑った。

「僕だけ?」

「え?」

「こういう亜美を知ってるの」

「…………」

 考える。

 直充にも言っていない。

 学校の子にも。

 もちろん、群司にも。

 幸也本人になんて、絶対に言えない。

「……そうかも」

「へえ」

「何?」

「いや」

 丈は笑った。

「ちょっと嬉しいなと思って」

「何で?」

「僕だけなんでしょ?」

「……まあ」

「特別じゃん」

「先生が?」

「僕が」

「自分で言う?」

「言う」

 亜美は呆れて、でも少し笑った。

「先生は先生でしょ」

「それ便利だね」

「何が?」

「何でも話していい人ってこと?」

「…………」

 亜美は考える。

 そして。

「たぶん」

 頷いた。

「先生ならいい」

「…………」

「他の人には絶対言わないけど」

 丈はしばらく何も言わなかった。

「先生?」

「うん」

「何?」

「何でもない」

「変なの」

「亜美に言われたくないな」

「何それ」

 二人で笑った。

 その言葉が、丈の中に静かに残った。

 ――先生ならいい。