忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 あの日、幸也の隣にいた女性。

 綺麗だった。

 服も、髪も、立ち振る舞いも。

 でも、亜美が一番羨ましかったのは、あの余裕だった。

「何ていうか……」

「うん」

「慣れてる感じ」

「何に?」

「…………」

 そこで、また言葉が止まる。

 丈が少し笑った。

「ほら」

「何」

「また恥ずかしがってる」

「……だって」

「僕に相談するのは?」

「…………」

 あの日の言葉を思い出す。

「恥ずかしいことじゃない」

「そう」

 丈は当たり前のように答えた。

 その声を聞くと、不思議と少しだけ肩の力が抜けた。

「……恋愛とか」

「うん」

「男の人とか」

「うん」

「そういうのに慣れてる感じ」

「なるほど」

「私、全然分からないから」

「それで大人になりたい?」

「……うん」

 丈は少し黙った。

「でもさ」

「何?」

「経験があるから大人ってわけじゃないよ」

「…………」

「亜美が見た人がどういう人かは知らないけど」

「うん」

「無理して同じになる必要はないんじゃない?」

「でも」

 亜美は俯いた。

「幸也先輩は、ああいう人の方がいいかもしれない」

 また、幸也。

 丈の表情がほんの少しだけ変わる。

 けれど、亜美は気づかなかった。

「どうしてそう思うの?」

「だって……」

 言いにくい。

 でも、ここまで話した。

「幸也先輩、女の人に慣れてるって先生言ってたでしょ」

「言ったね」

「だったら」

「うん」

「私みたいなの……子どもっぽいかなって」

「…………」

「何にも知らないし」

 丈が亜美を見る。

「それ、幸也に言うつもり?」

「無理」

「じゃあ誰かに?」

「言わない」

「僕には言ったけど」

「…………」

 亜美は顔を上げた。

 丈が笑っている。

「先生は別」

 考えるより先に、そう答えていた。

「…………」

 今度は丈が黙った。

「何?」

「いや」

 丈が少し笑う。

「別なんだ」

「だって先生でしょ」

「うん」

「ずっと相談してるし」

「そうだね」

「だから」

 亜美にとっては、それだけだった。

 学校では言えないことも、家族には言いにくいことも、丈には話せる。

 幸也への気持ちも、自分の悩みも、今みたいな誰にも聞かれたくないことまで。

「先生なら……まあ、いいかなって」

「何その言い方」

「だって本当にそうだから」

「僕、結構信用されてる?」

「されてるんじゃない?」

「疑問形なんだ」

「自分で考えて」

「ひどいな」

 丈が笑う。

 亜美も、つられて少し笑った。