忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「亜美」

「何?」

「自分で調べて悩むくらいなら」

 丈は、いつものように笑った。

「僕に相談しなよ」

「…………」

「いつもそうしてるでしょ」

「でも、これは……」

「僕に話すのも恥ずかしい?」

「……ちょっと」

「何で?」

「何でって……こういう話だから」

「ふうん」

 丈は少し笑った。

「でも、僕に相談するのは恥ずかしいことじゃないでしょ」

「…………」

「今までだって、亜美が誰にも言えないこと、僕には話してきたじゃん」

「……うん」

「だったら、これも同じ」

「同じ?」

「そう。分からないことを僕に相談するだけ」

「…………」

「何も恥ずかしくないよ」

 そう言われると。

 そんな気がしてくる。

 学校のことも。

 友達のことも。

 幸也先輩のことも。

 今まで。

 誰にも言えないことほど。

 丈には話してきた。

 だったら。

 これだけを恥ずかしがる方が。

 おかしいのかもしれない。

「じゃあ、教えてあげようか?」

「……何を?」

「亜美が知りたいこと」

「…………」

 亜美が丈を見る。

「そういうことも?」

「亜美が知りたいなら」

「……何それ」

 思わず笑ってしまった。

「先生、何でも知ってるみたい」

「亜美よりは知ってると思うよ」

「何か腹立つ」

「何で?」

「余裕ある感じが」

「年上だからね」

「ちょっとしか変わらないじゃん」

「そのちょっとが大きいんだよ」

「絶対嘘」

「ひどいな」

 二人で笑った。

 さっきまで。

 あんなに恥ずかしくて。

 スマホを見られた瞬間には、今すぐ帰りたいとまで思ったのに。

 丈と話しているうちに。

 いつの間にか。

 そんな気持ちも少し薄れていた。

「じゃ、帰る」

「うん。気をつけて」

「先生も」

「僕はまだ帰らないよ」

「知ってる」

 鞄を持って。

 亜美は教室を出ようとする。

「亜美」

「何?」

 振り返る。

 丈はいつもの顔で笑っていた。

「一人で変なこと考えすぎないように」

「……考えてない」

「調べてたじゃん」

「もう!」

 亜美が睨むと。

 丈が声を上げて笑った。

「じゃあね」

「……またね」

 少しだけ頬を膨らませながら。

 亜美は教室を出た。

 廊下を歩きながら。

 さっきの言葉を思い出す。

 ――僕に相談しなよ。

「…………」

 何でも相談してきた。

 今までも。

 ずっと。

 だったら。

 こういうことだって。

 聞いてもいいのかもしれない。

 そう思うと。

 少しだけ気持ちが軽くなった。

 大人になりたい。

 その気持ちは。

 まだ消えていない。

 ただ。

 一人で知らないことを調べ続けるより。

 丈に聞けばいい。

 亜美にとっては。

 それも。

 今までと同じ。

 いつもの相談の続きだった。