忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 数日後。

 屋上。

 群司は亜美の隣で寝転がっていた。

「寝るなら教室で寝ればいいのに」

「うるさい」

「屋上に来た意味ある?」

「風が気持ちいい」

「そう」

 亜美はイヤホンをつけていた。

 今日は片耳だけ。

 もう片方は。

 群司の耳にある。

「これ、前のより静かだな」

「うん」

「俺、こっちの方が好きかも」

「そうなんだ」

「何?」

「群司くんにも好みがあるんだと思って」

「俺を何だと思ってんの?」

「全校生徒の友達」

「音楽関係ないだろ」

 亜美が笑う。

 群司は寝転がったまま、その顔を見た。

「…………」

 風が吹く。

 黒い髪が揺れる。

 青い空。

 イヤホンから聞こえるピアノ。

 その向こうに。

 亜美の横顔。

 胸の奥が。

 少しだけ苦しくなる。

 最近。

 亜美を見ていると、変だ。

 笑ってくれると嬉しい。

 廊下で見つけると、声をかけたくなる。

 屋上に来て。

 亜美がいると。

 ちょっと嬉しい。

 いなかったら。

 たぶん、ちょっと残念。

 友達に亜美のことを聞かれると、何となく教えたくない。

 それに。

 今だって。

「…………」

 近い。

 同じイヤホンを使っているから。

 少し動けば肩が触れそうなくらい近い。

 風が吹くたび。

 亜美の長い髪が揺れる。

 ふわっと。

 甘い匂いがした。

「…………」

 群司は急に身体を起こした。

「うわ」

「何?」

 亜美が驚いてイヤホンを押さえる。

「あ、ごめん」

「びっくりした」

「いや……」

 何やってんだ、俺。

 心臓がうるさい。

 さっきまで普通だったのに。

 急に。

 隣に亜美がいることを意識してしまった。

「群司くん?」

「ん?」

「顔、変」

「は?」

「何か考えてる?」

「別に」

「そう?」

「うん」

 亜美は不思議そうに群司を見る。

 その顔を見て。

 また。

 どくん。

 胸が鳴った。

「…………」

 あ。

 群司は固まった。

 待て。

 これって。

 もしかして。

 いや。

 もしかしなくても。

「……マジか」

「何が?」

「何でもない!」

「急に大きい声出さないで」

「ごめん」

 亜美が少し眉を寄せる。

 それから何事もなかったように、また音楽を聴き始めた。

 群司は片手で口元を覆った。

 やばい。

 俺。

 亜美さんのこと。

 好きじゃん。

 気づいた途端。

 全部が恥ずかしくなった。

 今まで普通に隣に座っていたことも。

 二人で昼を食べていたことも。

 イヤホンを半分借りていることも。

 さっきまで平気だったのに。

 何で今さら。

「…………」

 群司はちらっと隣を見る。

 亜美は。

 普通だった。

 いつも通り。

 ピアノを聴いている。

 群司と肩が触れそうなくらい近くても。

 全然気にしていない。

「…………」

 何か。

 悔しい。

 こっちは今。

 めちゃくちゃ意識してんのに。

 亜美は平然としている。

「亜美さん」

「何?」

 すぐにこちらを見る。

「…………」

「何?」

「いや……何でもない」

「また?」

「うん」

「今日変だよ」

「知ってる」

「自分で分かってるんだ」

「今分かった」

「?」

 亜美が首を傾げる。

 その仕草まで可愛く見えて。

 群司は視線を逸らした。

 ――ダメだ。

 一回気づいたら。

 めちゃくちゃ可愛く見える。

 いや。

 前から綺麗だとは思っていた。

 だから気になった。

 でも。

 今のこれは。

 何か違う。