忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「それ、何?」

 ある日の昼休み。

 群司が亜美の手元を覗き込んだ。

「パン」

「それは見れば分かる」

「じゃあ何?」

「味」

 亜美は袋を見る。

「桃」

「桃?」

「うん」

「うまい?」

「好き」

「へえ」

 群司がじっとパンを見る。

「…………」

「食べたいの?」

「いや」

「見てるけど」

「どんな味すんのかなって」

「桃の味」

「それは分かる」

「じゃあ聞かないで」

「冷たっ」

 亜美は小さく笑った。

 そのままパンを一口食べる。

 群司も自分の弁当に戻った。

「亜美さんってさ」

「何?」

「結構笑うよな」

 亜美の口が止まった。

「……そう?」

「うん」

「学校では笑わないって言われる」

「誰に?」

「クラスの子」

「へえ」

 群司は卵焼きを口に入れた。

「じゃあ俺が面白いんじゃね?」

「それは違うと思う」

「何で!?」

「分からないけど」

「分からないのに否定すんなよ」

 また。

 亜美が笑った。

「ほら」

「何?」

「笑った」

「…………」

 言われて。

 亜美は少しだけ困った。

 自分では、そんなに笑っているつもりはない。

 でも。

 群司といると。

 くだらないことを言われて。

 変なことを聞かれて。

 気づけば口元が緩んでいる。

「……群司くんが変だから」

「結局それ?」

「うん」

「もうちょっといい理由ない?」

「ない」

「ひど」

 そう言いながら。

 群司は嬉しそうだった。