忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 昼休み。

 チャイムが鳴ると同時に、亜美はイヤホンを持って教室を出た。

 いつもの場所へ行こう。

 屋上。

 あそこなら一人になれる。

 誰にも見られない。

 誰の声も聞かなくていい。

 階段を上る。

 重い扉を押す。

 風が吹いた。

 長い黒髪がふわりと揺れる。

「…………」

 亜美はいつもの場所へ向かった。

 壁際に座る。

 パンの袋を開く。

 イヤホンを耳につけようとして。

 ふと。

 昨日のことを思い出した。

『いつもイヤホンしてるよな』

『何聴いてんの?』

『ピアノ』

『ピアノ?』

 群司。

 昨日初めて話した同級生。

 いつも友達に囲まれている人。

 明るくて。

 馴れ馴れしくて。

 少し変な人。

 でも。

 優しかった。

「…………」

 どうして思い出したんだろう。

 亜美はイヤホンを耳に入れた。

 ピアノが流れる。

 いつもなら。

 それだけで外の世界から離れられる。

 でも今日は。

 曲の向こう側から。

『勝手に決められるの、嫌だもんな』

 そんな声まで聞こえてくるような気がした。

「……変なの」

 小さく呟いた。