忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 廊下を曲がると。

「群司!」

 待っていた友人に呼ばれた。

「遅えよ!」

「悪い悪い」

「何してたんだよ」

「ちょっとな」

「何そのタオル」

「借り物」

「誰に?」

「保健室」

「怪我した?」

「してねえよ」

「じゃあ何?」

「いいから行こうぜ」

「何だよ、気になるじゃん」

 友人が肩を組んでくる。

 群司も笑う。

 いつもの輪の中へ戻る。

 誰かがいて。

 誰かが話して。

 笑い声がある。

 いつもの群司の場所。

 なのに。

「…………」

 頭の中には。

 さっきの亜美がいた。

『変な人』

 少しだけ笑った顔。

『ピアノ』

 小さな声。

『勝手に決められるの、嫌』

 群司は歩きながら、ふと思う。

 今まで。

 屋上で遠くから見ていただけだった。

 何を聴いているのか知らなかった。

 どんな声なのかも知らなかった。

 笑うところなんて。

 見たことがなかった。

「群司」

「ん?」

「お前さ」

「何」

「何ニヤけてんの?」

「は?」

「ニヤけてる」

「ニヤけてねえよ」

「いや、絶対ニヤけてた」

「うるせえ」

 友人を軽く小突く。

 笑い声が上がった。

 群司も笑う。

 でも。

 なぜ笑っていたのか。

 自分でも、まだよく分かっていなかった。