忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 その沈黙に、亜美の指が震える。

「別れるかどうか……ですか?」

「亜美ちゃん」

「嫌です……」

「まだそんなこと言ってない」

「でも……考えたら……」

 涙が次々と溢れる。

「私と別れた方がいいって、思うかもしれない……」

「…………」

「嫌です……それは、嫌……」

 幸也の袖を掴む指に力が入った。

「幸也さんが好きです……」

「うん」

「ずっと好きだったんです……」

「分かってる」

「やっと……好きって言ってもらえたのに……」

 声が途切れる。

「終わるの、嫌です……」

「終わるなんて言ってないよ」

「でも……」

「亜美ちゃん」

「…………」

「今日は帰って」

「……嫌です」

「…………」

 亜美は首を横に振った。

「帰れないです……」

「…………」

「幸也さんと、ちゃんと話せるまで……帰りたくないです」

「今は話せないって」

「待ちます……」

「…………」

「話せるまで、待ちますから……」

 幸也が黙った。

 亜美は袖を掴んだまま、離さない。

 しばらくして。

 幸也が深く息を吐いた。

「……分かった」

「…………」

 亜美が顔を上げる。

 幸也は立ち上がった。

「じゃあ、俺が出る」

「……え」

 掴んでいた袖が動いた。

「待って……」

「ごめん」

「幸也さん……」

 幸也の手が、亜美の指に触れた。

 一瞬。

 握ってくれるのかと思った。

 けれど。

 袖を掴んでいた指を、一つずつ外されていく。

「今日は無理」

「…………」

「また話すから」

「いつ……?」

「…………」

「いつ、話してくれますか……?」

「ちゃんと考えてから」

「……嫌です」

 最後の指が外れる。

「待ってください……」

 幸也は鞄を持った。

「幸也さん」

「…………」

「行かないで……」

 幸也の足が止まった。

 ほんの一瞬。

「……ごめん」

 扉へ向かう。

「幸也さん……」

 扉が開く。

 呼んでも、幸也は振り返らなかった。

 扉が閉まった。

「…………」

 亜美は動けなかった。

 誰もいなくなった部室で。

 外された指だけが、まだ幸也の袖を探していた。