忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 軽音サークルの部室。

 亜美が扉を開けると、幸也はキーボードの前に座っていた。

「幸也さん」

「亜美ちゃん」

 いつもと同じ声。

 それだけで頬が緩む。

 亜美は幸也の隣へ行った。

「今日は何弾くんですか?」

「まだ決めてない」

「そうなんですね」

「うん」

 隣に座る。

 けれど、幸也は鍵盤に手を置かなかった。

 亜美は少し待ってから、幸也を見る。

「……弾かないんですか?」

「あとで」

「はい」

 膝の上で手を重ねた。

 何となく、いつもと違う。

「亜美ちゃん」

「はい?」

「今日、群司くんと話した」

「…………」

 指先が止まった。

「群司と……?」

「うん」

「何を……」

「丈のこと」

「…………」

 胸の奥がざわついた。

「丈と、どういう関係なの?」

「…………」

「亜美ちゃん?」

「同じ……バイト先です」

「それは知ってる」

「…………」

「高校のとき通ってた塾なんだよね」

「……はい」

「俺が聞いてるの、そういうことじゃない」

 亜美は俯いた。

 幸也の声はまだ穏やかだった。

「文化祭の前の日、俺に告白したあと」

「…………」

「丈と会った?」

 重ねた指に力が入る。

「……はい」

「何で?」

「…………」

「亜美ちゃん」

「相談が……あって」

「相談?」

「……はい」

「何の?」

「…………」

 答えられなかった。

 幸也は少し待ったけれど、それ以上は聞かなかった。

「あと、もう一つ」

「…………」

「文化祭の日、群司くんがステージに出る前に気づいたらしいんだけど」

 幸也が亜美を見る。

「亜美ちゃんの首に、キスマークがあったって」

「…………」

 亜美は瞬きをした。

「キス……マーク?」

「うん」

「私に……?」

「知らなかった?」

「……はい」

 首元に手が伸びた。

 もう、そこには何もない。

 文化祭の前の日。

 丈に会った。

 抱きしめられて。

 首筋に触れた唇。

「…………」

 指先が冷たくなる。

「群司くんから聞いた」

 亜美が顔を上げた。