忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「で」

「え?」

「まだ好きなんだ」

「…………」

 群司の顔が強張った。

「亜美ちゃんのこと」

「…………」

 答えられない。

 答えなくても。

 その沈黙で十分だった。

「だから俺に言いに来た?」

「…………」

「丈と何かあったかもしれないって言えば」

 幸也が群司を見る。

「俺と亜美ちゃんがうまくいかなくなるかもしれないから?」

「違っ――」

 否定しかけて。

 声が止まった。

 本当に。

 違うのか。

 もし。

 幸也が何も知らないままだったら。

 自分は今日。

 ここに来ただろうか。

「…………」

 亜美が幸也と別れたら。

 そうしたら。

 もう一度。

 自分にも何かあるかもしれない。

 そんなことを。

 思っていないとは言えない。

「俺らが別れたらいいと思ってる?」

「…………」

 否定できなかった。

 幸也の目が冷たくなる。

「……最悪」

「…………」

 痛かった。

 でも。

 言い返せない。

「すみません」

「俺に謝られても」

「…………」

「亜美ちゃんが好きなら」

 幸也が短く息を吐く。

「亜美ちゃんが幸せなの邪魔すんなよ」

「…………」

 胸の奥を。

 まっすぐ刺された。

 亜美は。

 幸せそうだった。

 自分がずっと見たかった笑顔で。

 幸也の隣にいた。

 それでも。

「でも」

 群司は顔を上げる。

「俺が見たことは、嘘じゃないです」

「…………」

「俺がどういう気持ちで話してても」

 幸也を見る。

「見たことまで嘘にはならないです」

「…………」

 幸也は何も言わなかった。

 腹が立つ。

 群司の気持ちも。

 こんな話を聞かされたことも。

 全部。

 なのに。

 無視できない。

 亜美の声が。

 頭の中に戻ってくる。

『本当に、何も聞いてないんですか?』

「…………」

 あのとき。

 何を確認していた?

 自分が何も知らないと分かったあと。

 どうして。

 安心したような顔をした?

「……もういい」

 幸也が言った。

「幸也さん」

「亜美ちゃんに聞くから」

「…………」

「君の話だけで決めつける気ないし」

 苛立ちを抑えるように。

 幸也は視線を逸らす。

「本人に聞けば分かるから」

「……はい」

 群司の胸がざわついた。

 聞く。

 幸也が。

 亜美に。

 これから。

 二人は何を話すんだろう。

「じゃあ」

 幸也が歩き出す。

「幸也さん」

「何」

「…………」

 呼び止めたのに。

 言葉が出ない。

「すみません」

 結局。

 それだけだった。

 幸也は返事をしなかった。