忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 昼休み。

 亜美は一人で屋上にいた。

 パンを少しずつ食べながら、イヤホンから流れるピアノの音に耳を澄ませる。

 風が長い黒髪を揺らした。

 ここにいる間だけは。

 誰にも見られていない気がした。

 誰にも何も言われない。

 誰かが笑っていても、自分のことではない。

 そう思える。

「…………」

 亜美は空を見上げた。

 青い。

 雲がゆっくり流れている。

 ピアノの音を聴いていると。

 また、あの人のことを思い出した。

 赤みのあるブラウンの髪。

 鍵盤の上を滑る指。

 繊細な音。

 その直後に、驚くほど荒々しくなった演奏。

 そして。

 自分にだけ教えてくれた秘密。

『昔、ピアノやってたんだ』

『音大、落ちたけどな』

 少し照れたように笑った顔。

 もう一度、会いたい。

 また演奏を聴きたい。

 もっと話してみたい。

 誠星大学へ行きたい。

 その気持ちは。

 日に日に強くなっていた。