忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 翌日。

 ダンスサークル。

 群司は鏡の前で踊っていた。

 音に合わせて身体を動かす。

 一度、間違える。

「…………」

 最初から。

 もう一度、音を流す。

 踏み込む。

 回る。

 また僅かに遅れた。

「くそ……」

「群司?」

 鉄の声。

「何ですか?」

「今日どうしたの?」

「何がですか」

「何か変」

「別に何もないです」

「…………」

「もう一回やります」

 群司は位置へ戻る。

 身体を動かせば、余計なことを考えなくて済むと思った。

 なのに浮かぶ。

 幸也の隣で笑う亜美。

 繋がれた手。

 自分には向けられなくなった笑顔。

「…………」

 足が止まった。

 音だけが先へ進んでいく。

「群司」

 今度は光成だった。

「休んだら?」

「大丈夫です」

「でも」

「大丈夫なんで」

「…………」

 少し強く言ってしまった。

「……すみません」

「いや、いいけど」

 群司はタオルを取って汗を拭く。

 息を整えながら、視界の端に亜美を捉えた。

 備品を確認している。

 そのとき。

 亜美がスマートフォンを見る。

 何か届いたらしい。

 画面を見た瞬間、頬が緩んだ。

「…………」

 誰からなのか。

 聞かなくても分かる気がした。

 群司は目を逸らす。

 遅かった。

 ふいに、その言葉が頭に浮かんだ。

 高校の頃からずっと近くにいたのに、何も言えなかった。

 大学に入って。

 やっと言ったときには、亜美の心にはもう誰かがいた。

 それでも諦められなくて。

 あの日。

 傷つけた。

「…………」

 亜美が自分を避ける理由は分かっている。

 自分のせいだ。

 それでも。

 幸也の隣で笑う姿を見るたび、じっとしていられなくなる。

 このまま何もしなかったら。

 本当に終わる。

「…………」

 そこで。

 丈の顔が浮かんだ。

 幸也。

 丈。

 亜美。

 どうなってるんだよ。

 丈と亜美のことを、自分は見た。

 あの日だけじゃない。

 それまでだって、何度も引っかかることはあった。

 なのに今。

 亜美の隣にいるのは幸也だった。

「…………」

 じゃあ。

 幸也は。

 どこまで知ってるんだ。

 群司はゆっくり顔を上げた。

 少し離れたところで、亜美がまだスマートフォンを見ている。

 その顔には。

 自分がずっと見たかった笑顔があった。

「…………」

 何かしなきゃ。

 そう思うほど。

 何をすればいいのか分からない。

 ただ。

 亜美が遠くなっていくことだけが怖かった。