忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 数日後。

 亜美のアルバイトが終わる頃。

 塾の近くに幸也がいた。

 スマートフォンを見る。

『もう少しかかります』

『分かった』

 送信する。

 亜美を待つ。

 少し前の自分なら、こんなことはしなかった気がする。

 誰かが終わる時間に合わせて、わざわざ迎えに来るなんて。

「…………」

 でも、会いたかった。

 理由なんてそれだけでよかった。

 塾の扉が開く。

 幸也が顔を上げた。

 出てきたのは亜美ではなく、丈だった。

「…………」

 丈もすぐに幸也に気づく。

「幸也」

「お疲れ」

「何してんの?」

「待ってる」

「誰を?」

「亜美ちゃん」

「…………」

 丈が一度、塾の中を見る。

「そっか」

「うん」

「付き合ったんだ」

「知ってた?」

「まあ」

「亜美ちゃんから聞いた?」

「いや」

「じゃあ何で」

「見てたら分かる」

「そんな分かりやすい?」

「亜美が」

「…………」

 幸也が少し笑う。

「確かに」

「幸也もだけど」

「俺?」

「うん」

「そう?」

「そう」

 丈が幸也の隣に立つ。

 同じ研究室で、普段から顔を合わせている。

 亜美が丈と同じ塾で働いていることも、幸也は知っていた。

「迎えに来るんだな」

「たまにね」

「へえ」

「何」

「別に」

 幸也が丈を見る。

「お前、もう帰るの?」

「うん」

「そっか」

「幸也は?」

「亜美ちゃん待って帰る」

「そう」

 丈はいつもと変わらない。

「幸也」

「ん?」

「亜美、幸せそうだよ」

「…………」

 幸也が丈を見る。

「何、それ」

「そのまま」

「塾でも?」

「うん」

 幸也の口元が少しだけ緩む。

「そっか」

「嬉しそう」

「うるさい」

 丈が笑った。

「じゃあ、俺帰るわ」

「お疲れ」

「お疲れ」

 丈が歩き出す。

 その背中を幸也が見送る。