忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 それから、嫌でも目につくようになった。

 講義が終わったあと。

 亜美がスマートフォンを見ると、その表情がふっと柔らかくなる。

 サークルが終われば、以前より早く帰る日も増えた。

「亜美ちゃん、今日ももう帰る?」

 光成が聞く。

「はい」

「最近早いね」

「……ちょっと」

 亜美が小さく笑う。

「もしかしてデート?」

「…………!」

 分かりやすく頬が赤くなった。

「あ、当たり?」

「光成」

 鉄が止める。

「何だよ」

「困ってる」

「あ、ごめん」

「いえ……」

 亜美は鞄を持つ。

「お疲れさまでした」

「お疲れー」

「お疲れさま」

 光成と鉄には普通に笑って、普通に話す。

 そして群司の前を通る。

「…………」

「…………」

 亜美からは何も言わない。

「亜美」

「……何?」

「明日の講義、二限からだよな」

「うん」

「教室変わってるの知ってる?」

「知ってる」

「そっか」

「うん」

「…………」

「じゃあ」

「……うん」

 それだけで、亜美は出ていった。

 扉が閉まる。

「…………」

 群司はしばらくそこを見ていた。

 ただ話したかった。

 前みたいに、どうでもいいことで。

 亜美に話しかけて。

 亜美が答える。

 それだけでよかったはずなのに。

 今は会話を続ける理由まで、探さなければならない。

「群司」

「何ですか?」

 光成だった。

「……いや」

「何ですか、それ」

「何でもないです」

「…………」

 光成はそれ以上聞かなかった。

 群司はスマートフォンを取り出して時間を見る。

 まだ、こんな時間。

 今から幸也に会うのかな。

 そんなことまで考えて、すぐに画面を消した。