忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 それから、彼女は丈に質問するようになった。

 毎回ではない。

 丈を見つけると必ず駆け寄ってくるようなタイプでもない。

 ただ、分からない問題があると、

「先生、今いいですか?」

 と声をかけてくる。

 丈も自然と彼女を気にするようになった。

 そこでようやく名前を覚えた。

 亜美。

 苗字より先に、下の名前の方が頭に残った。

「亜美、これ前にも間違えてなかった?」

「間違えてません」

「いや、間違えてた」

「別の問題です」

「数字が違うだけで解き方同じ」

「じゃあ、違う問題です」

「そういう問題じゃない」

「問題の話なのに?」

「……絶対分かってて言ってるだろ」

 亜美が笑う。

 最初の印象とは、どんどん離れていった。

 静かなのは確かだった。

 大勢の中で自分から目立とうとはしない。

 けれど仲のいい相手とは普通に話すし、冗談も言う。

 そして思っていた以上に、抜けている。

「亜美、消しゴム落ちた」

「あ、ありがとうございます」

「さっきから三回目」

「机が悪いんです」

「机のせいにするなよ」

「ちょっと傾いてません?」

「傾いてない」

「先生、こっちから見てください」

「見ても変わらないから」

 こんな調子だった。

 丈はいつの間にか、亜美と話すこと自体を楽しむようになっていた。