忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 その日のダンスサークル。

 亜美は練習に必要なものを確認していた。

「亜美ちゃん、これどこ置く?」

 鉄に聞かれて。

「あ、そっちで大丈夫です」

「分かった」

「ありがとうございます」

 光成が横から別のものを持ち上げる。

「これは?」

「それはまだ使うので、置いておいてください」

「了解」

 いつも通り。

 鉄や光成とも。

 ほかの部員とも。

 亜美は普通に話していた。

 笑うこともできる。

「…………」

 少し離れたところに。

 群司がいた。

 視線が重なりそうになって。

 亜美は手元へ目を落とす。

 嫌いになったわけではない。

 でも。

 あの日から。

 亜美の方から群司へ話しかけることはなくなった。

 呼ばれれば答える。

 サークルに必要なことなら話す。

 それだけ。

「亜美」

「…………」

 名前を呼ばれる。

 身体が少し強張った。

「……何?」

 顔を上げる。

 群司がタオルを持って立っていた。

「これ、どこ置けばいい?」

「あ……そこ」

「ここ?」

「うん」

「分かった」

 群司がタオルを置く。

 亜美はそれを確認すると。

 すぐに別の作業へ戻った。

「…………」

 群司は何も言わなかった。

 以前なら。

 用事が終わっても。

 そのまま何か話した。

 講義のこと。

 高校の頃のこと。

 どうでもいいこと。

 今は。

 必要な言葉しか交わさない。