忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 講義が終わる。

 亜美は軽音サークルの部室へ向かった。

 扉の前まで来る。

 以前なら。

 中に幸也がいるかもしれないと思うだけで緊張した。

 今も。

 それは変わらない。

 でも。

 もう、会うことをためらわなくていい。

 扉を開ける。

「失礼します」

「亜美ちゃん」

「…………」

 すぐに声が飛んできた。

 幸也がキーボードの前に座っている。

「来たね」

「はい」

「こっち」

 幸也が自分の隣を軽く叩いた。

「……そこですか?」

「他にどこ座るの」

「…………」

 亜美は少しだけ迷ってから。

 その隣へ座った。

 近い。

 肩が触れそうなくらい。

 前なら。

 少し離れたところから、幸也の演奏を聴いていた。

 今は。

 隣に座っていい。

 それだけのことが。

 まだ少し信じられなかった。

「何聴きたい?」

「え?」

「せっかく来たんでしょ」

「……何でもいいです」

「それ一番困るやつ」

「じゃあ……」

 亜美は少し考える。

「幸也さんが弾きたい曲」

「結局同じじゃん」

「違います」

「どこが?」

「幸也さんが選んでます」

「何それ」

 幸也が笑う。

 鍵盤へ指を置いた。

 最初の音が鳴る。

「…………」

 亜美は静かに聴いた。

 好きな音。

 ずっと。

 この音を聴きたかった。

 高校生の頃。

 初めて幸也の演奏を聴いた日から。

 何度も。

 何度も。

 その音を追いかけた。

 今は。

 その人の隣で聴いている。