忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 朝、目を覚ました瞬間。

 亜美は、学校へ行きたくないと思った。

「…………」

 天井を見つめたまま、しばらく動けなかった。

 昨日、丈に話を聞いてもらった。

 机の中に入っていた小さな紙も、丈が捨ててくれた。

『いらないものまで大事に持ってなくていいよ』

 その言葉を思い出す。

 昨日の帰り道は、少しだけ気持ちが軽かった。

 明日も学校へ行ける。

 そう思ったはずだった。

 でも。

 朝になれば、また怖くなる。

 制服を着れば、学校が近づく。

 家を出れば、もっと近づく。

 校門をくぐれば。

 また、あの教室へ行かなければならない。

「亜美ー、起きてる?」

 扉の向こうから母親の声がした。

「……起きてる」

「遅刻するよ」

「うん」

 身体を起こす。

 制服に着替える。

 鏡の前に立ち、長い黒髪を整えた。

 鏡の中には、いつもの自分がいる。

 何も変わっていない。

 なのに。

 学校へ行くと、この姿が自分のものではなくなるような気がした。

 綺麗。

 大人っぽい。

 何もしなくてもモテる。

 男好き。

 自分が望んでもいない言葉を、勝手につけられる。

「…………」

 亜美は鏡から目を逸らした。

 大丈夫。

 何かあったら、丈に話せばいい。

 先生なら聞いてくれる。

 そう思うと。

 少しだけ、足が動いた。