忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 外に出る。

 夜の空気が少し冷たい。

 二人で歩く。

 前と同じ道。

 なのに。

 何も話さない。

「…………」

 変だった。

 今までは。

 沈黙でも平気だったのに。

 今日は、何かを話したかった。

「先生」

「ん?」

「相談はしないけど」

「うん」

「こうやって話すのは、いいよね?」

 丈の足が少し緩んだ。

「…………」

「先生?」

「亜美」

「うん」

「もう、こうやって会うのもやめようか」

「…………」

 亜美は足を止めた。

 丈も止まる。

「……え?」

「二人で会うの」

「…………」

「もうやめた方がいいと思う」

 何でもないことみたいに。

 丈は言った。

「何で……?」

「幸也と付き合ってるんだろ?」

「うん」

「なら、その方がいいじゃん」

「…………」

 前にも聞いた言葉。

 その方がいい。

 幸也とちゃんと付き合うなら。

 キスもしない。

 その先も。

 相談もしない。

 それは分かった。

 でも。

「会うのも……?」

「うん」

「塾では会うよね?」

「それは仕方ないだろ」

「…………」

「でも、二人で会ったり、こうやって帰ったりするのはなし」

「…………」

 胸の奥がざわついた。

「そこまでしないと駄目なの?」

「駄目っていうか」

 丈は少しだけ考える。

「その方がいいと思うけど」

「…………」

「幸也と付き合ってるんだろ?」

「……うん」

 分かっている。

 幸也は自分の恋人。

 大好きな人。

 丈とのキスも、その先も。

 もうしない。

 それなのに。

 丈と二人で話せなくなることだけが。

 どうしてこんなに不安なんだろう。

「先生とは、普通に話せると思ってた」

「塾では話すよ」

「そうじゃなくて……」

「…………」

 言葉が続かなかった。

 自分でも。

 何を求めているのか分からない。

「先生」

「ん?」

「もう会わないの?」

「うん」

 すぐに返ってきた。

「二人では」

「…………」

 亜美は俯いた。

 思っていたより。

 その言葉が寂しかった。

 相談できなくなるだけだと思っていた。

 キスもしない。

 その先のこともしない。

 それでも。

 丈は今までと同じところにいると思っていた。

 何かを相談しなくても。

 たまに話して。

 一緒に帰って。

 そんな関係には戻れると思っていた。

 でも。

 違った。

「亜美」

「……うん」

「幸也いるだろ」

「…………」

「大丈夫だよ」

 前にも。

 同じように言われた。

『大丈夫だよ』

『亜美なら』

 あのときは。

 頭を撫でてくれた。

「…………」

 亜美は無意識に、丈を見上げた。

 でも。

 今日は。

 丈の手は伸びてこなかった。

「……うん。大丈夫」

 亜美は自分に言い聞かせるように頷いた。

「幸也さんもいるし」

「うん」

「ちゃんとするって決めたから」

「そうだな」

「…………」

 丈に答えながら。

 亜美は自分にも同じことを言い聞かせていた。