忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 翌日の昼休み。

 亜美はまた、一人で屋上にいた。

 イヤホンをつける。

 ピアノ曲を流す。

 風が黒髪を揺らす。

 目を閉じる。

 昨日より。

 少しだけ音が優しく聞こえた。

 屋上へ続く階段を、一人の男子が通りかかった。

 群司だった。

 その日も、たまたまだった。

 少しだけ開いた扉の向こうに、長い黒髪が見える。

 群司の足が止まった。

「……またいる」

 小さく呟く。

 今日も一人。

 今日もイヤホン。

 何を聴いているのかは、知らない。

 どんな声なのかも知らない。

 話したこともない。

 群司はそのまま通り過ぎようとした。

 そのとき。

 階下から友人の声が飛んできた。

「群司! 購買行くぞ!」

「待って!」

「早くしろって!」

「分かったって!」

 群司は笑いながら返した。

 そして。

 ほんの一瞬だけ。

 亜美を振り返った。

 亜美はやっぱり気づいていない。

 イヤホンの向こう側にいる。

 群司は友人たちのところへ戻っていった。

 いつもの場所へ。

 誰かがいて。

 笑い声があって。

 名前を呼ばれる場所へ。

 その途中。

 群司は、ふと振り返った。

 屋上へ続く階段。

 もうそこから亜美の姿は見えない。

 それなのに。

 ――あの子、いつも一人だな。

 また、考えていた。

「群司ー! 何してんだよ!」

「今行くって!」

 友人の声に、群司は笑って駆け出す。

 すぐに、いつもの輪の中へ戻っていった。

 亜美とは、まだ一度も話したことがない。

 どんな声で話すのかも知らない。

 何を聴いているのかも知らない。

 どんなことを考えて、一人であそこにいるのかも知らない。

 ただ。

 次に屋上へ続く階段を通ったときも。

 きっと自分は、あの長い黒髪を探してしまう。

 そんな気がした。