忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 その夜。

 亜美はベッドの上で横になっていた。

 眠ろうとして目を閉じる。

 浮かんだのは。

 別れ際の幸也だった。

「……っ」

 布団を鼻まで引き上げる。

 これは。

 しばらく眠れそうにない。

 そのとき。

 スマートフォンが震えた。

 画面を見る。

 幸也。

 すぐに身体を起こす。

『ちゃんと帰れた?』

 さっきの。

『帰れる?』

 を思い出して。

 少しだけ頬が緩んだ。

『帰れました』

 送信。

 すぐに返ってくる。

『よかった』

 画面が静かになった。

「…………」

 もう少し話したい。

 でも。

 何を送ればいいのか分からない。

 文字を打っては消していると。

 先にスマートフォンが震えた。

『亜美ちゃん』

「……?」

 続けて。

『明日も会おうね』

「…………!」

 亜美は画面を見つめた。

 明日も大学に行く。

 部室へ行けば、きっと会える。

 それでも。

 幸也の方から。

 会おうと言ってくれた。

『はい』

 打つ。

 けれど。

 少し考えて消した。

『会いたいです』

 送信。

「……っ」

 送ったあとで恥ずかしくなった。

 すぐに既読がつく。

 数秒後。

『俺も』

 たった二文字。

 亜美は枕へ倒れ込んだ。

 顔を埋めたまま。

 しばらく動けなかった。

 やがて。

 もう一度スマートフォンを手に取る。

『おやすみなさい』

『おやすみ』

 返事を見届けて。

 画面を閉じようとしたとき。

 もう一度震えた。

『また明日、亜美ちゃん』

「…………」

 亜美はその文字を指でそっとなぞった。

 ずっと前から。

 同じように呼ばれていた名前。

 なのに今夜は。

 いつもと違って見えた。

「……おやすみなさい」

 誰もいない部屋で。

 小さく返した。