忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 校舎を出たところで。

 幸也が足を止めた。

「じゃあ、また明日」

「はい」

「部室来る?」

「行きます」

「そっか」

 亜美は少し迷ってから、幸也を見る。

「幸也さん」

「ん?」

「私……すごく嬉しいです」

 幸也の表情が少しだけ緩んだ。

「俺も」

 短い。

 でも。

 その一言が嬉しかった。

「じゃあ……また明日」

「うん」

 繋いでいた手が離れる。

 空っぽになった手を下ろそうとしたとき。

「亜美ちゃん」

「はい?」

 もう一度。

 手を取られた。

「……?」

 幸也がその手を持ち上げる。

 次の瞬間。

 指先に。

 柔らかいものが触れた。

「…………!」

 幸也の唇。

 理解したときには、もう離れていた。

「じゃあね」

「…………」

「亜美ちゃん?」

「…………」

「帰れる?」

「……む、無理かもしれません」

「何で」

「何でって……!」

 幸也が口元を緩める。

「じゃあ送る?」

「それはもっと無理です……!」

「何それ」

 幸也が笑った。

「また明日」

「……はい」

 歩いていく背中を見送ってから。

 亜美は自分の手を胸元へ引き寄せた。

 さっき触れられた指先を。

 しばらく開くことができなかった。