忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「亜美ちゃん」

「はい」

「手」

「え?」

「昨日の」

「…………!」

 反射的に自分の手を見る。

「何で赤くなるの」

「なります……」

「そっか」

 幸也が手を差し出した。

 昨日は。

 離れそうになった幸也の指を、亜美から掴んだ。

 今日は。

 最初から。

 その手が自分へ向けられている。

 亜美はそっと手を重ねた。

「……っ」

 すぐに指が絡む。

「幸也さん……」

「何?」

 握られた手を見る。

「付き合ったんだから、いいでしょ」

「…………!」

 付き合った。

 その言葉だけが、胸の中に残った。

 私。

 幸也さんの恋人なんだ。

「また赤い」

「見ないでください……」

「無理」

「何でですか」

「見たいから」

「…………」

 亜美は言葉を失った。

「亜美ちゃん」

「……はい」

「こっち見て」

 ゆっくり顔を上げる。

 幸也が繋いだ手を少し引いた。

「え……」

 身体が前へ傾く。

 近い。

「幸也さん……?」

「ん?」

 幸也の顔が少しずつ近づいてくる。

 亜美の肩に力が入った。

 それに気づいて。

 幸也が止まる。

「嫌?」

 亜美は小さく首を振った。

「嫌じゃないです……」

「そっか」

 もう一度。

 距離が縮まる。

 亜美は目を閉じた。

 額に。

 柔らかい感触が落ちる。

「……え?」

 目を開けると。

 幸也が少し離れたところにいた。

「何その顔」

「……おでこ」

「うん」

「…………」

「嫌だった?」

「嫌じゃないですけど……」

「じゃあいいじゃん」

 キスされると思った。

 そんなこと。

 絶対に言えない。

 幸也の口元が少し緩む。

「何期待した?」

「してません!」

「へえ」

「してないです……!」

「そっか」

 絶対。

 分かってる。

 亜美は俯いた。

 すると今度は、絡んだままの指が目に入る。

 逃げ場がなかった。