忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 夕方。

 亜美は軽音サークルの部室の前に立っていた。

 昨日も来た場所なのに。

 今日は扉を開けるだけで緊張する。

 手を伸ばす。

「失礼します……」

「亜美ちゃん」

 幸也がいた。

 一人。

 キーボードの近くに座っている。

「来たね」

「はい」

「そこ座れば?」

「……はい」

 向かいへ座る。

 昨日と同じ場所。

『好きだよ』

『俺と付き合って』

 膝の上で重ねた手に力が入った。

「亜美ちゃん」

「はいっ」

「そんな緊張する?」

「します……」

「そっか」

 幸也が少しだけ笑う。

 余裕がある。

 ずるい。

 昨日。

 あんなことを言った人なのに。

「幸也さん」

「ん?」

「昨日のことなんですけど」

「うん」

 言わなきゃ。

 幸也は急かさない。

 亜美が話すのを待っている。

「私……ずっと幸也さんが好きでした」

「…………」

「高校生の頃から」

「うん」

「振られても」

 一度、息を吸う。

「やっぱり、好きでした」

 幸也の目が柔らかくなる。

 亜美はその目を見たまま続けた。

「だから」

「うん」

「私も、幸也さんと付き合いたいです」

 言えた。

 今度は。

 ちゃんと幸也に返せた。

「そっか」

 幸也の口元が少し緩む。

「……それだけですか?」

「何が?」

「そっか、だけ?」

「駄目?」

「駄目じゃないですけど……」

「じゃあいいじゃん」

 幸也が笑う。

 こっちは昨日からずっと考えていたのに。

 少しだけ悔しくなる。