忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「……先生に言ってよかった」

「何が?」

「これ」

 亜美は紙を見る。

「誰にも言おうと思わなかった」

「兄貴にも?」

「言わない」

「心配するから?」

「うん」

「俺は心配していいの?」

 亜美は少し考える。

「先生は……」

「うん」

「大丈夫だから」

「何それ」

「分からない」

 亜美自身にも、説明できなかった。

 ただ。

「先生なら」

 亜美は丈を見る。

「全部話しても大丈夫な気がする」

 その言葉に。

 丈は黙った。

 胸の奥で。

 小さな感情が、また一つ大きくなる。

 幸也との秘密は、教えてもらえなかった。

 それが少し面白くなかった。

 でも。

 こういう亜美は。

 自分にしか見せていない。

 学校で誰にも言えなかったこと。

 兄にも言えないこと。

 傷ついたこと。

 怖かったこと。

 全部。

 自分のところへ持ってくる。

 それが。

 どうしようもなく嬉しかった。

「……そっか」

 丈は小さく笑った。

「じゃあ、何かあったら話しな」

「うん」

「一人で抱え込まないこと」

「はい」

「あと」

「何?」

「この紙」

 丈は手に持った紙を見る。

「俺が捨てる」

「どうして?」

「亜美、持って帰ったらまた見るだろ」

「……見るかも」

「だと思った」

 丈は紙を丸める。

「いらないものまで大事に持ってなくていいよ」

 そのままゴミ箱へ落とした。

 亜美は、それを見つめた。

 自分では捨てられなかった。

 小さな紙。

 たった数文字。

 それなのに。

 ずっと鞄の中に入れていた。

 丈は、それを簡単に捨てた。

「…………」

 胸の中まで全部消えたわけではない。

 明日になれば。

 また学校へ行かなければならない。

 教室の扉を開ければ。

 また見られるかもしれない。

 何か言われるかもしれない。

 怖い。

 それでも。

「先生」

「ん?」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 少しだけ。

 明日も学校へ行ける気がした。