忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「…………!」

 強くない。

 けれど。

 動きは止まった。

「待って」

「…………」

 幸也の指が、自分の手首を包んでいる。

「幸也さん……?」

「まだ帰らないで」

「…………」

 いつだって。

 追いかけていたのは亜美だった。

 会いたくて。

 演奏を聴きたくて。

 少しでもそばにいたくて。

 幸也のところへ行くのは。

 いつも亜美だった。

 その幸也が今。

 離れようとした自分を。

 引き止めている。

「話、終わってないから」

「……はい」

 小さく答えると。

 幸也の指がゆっくり離れた。

 亜美はもう一度座る。

 触れられていた手首が。

 妙に気になった。

「…………」

「幸也さん……」

「ん?」

「私……」

 何を言えばいいのか分からなくて。

 俯く。

 すると。

 目の前に影が落ちた。

「……え?」

 幸也が。

 亜美の前にしゃがんでいた。

 下から目が合う。

「…………!」

 思わず顔を逸らす。

「何で隠すの」

「だって……」

「顔見たい」

「…………」

 そんなこと。

 言わないでほしい。

 余計に顔を上げられなくなる。

「亜美ちゃん」

「…………」

「俺見て」

 名前を呼ばれて。

 亜美はゆっくり視線を戻した。

 近い。

 目を逸らしたら。

 すぐに気づかれてしまう距離。

 いつもなら少し笑っている幸也が。

 今日は笑っていなかった。

「この前は亜美ちゃんからだったでしょ」

「……はい」

「だから」

 幸也の手が伸びる。

「今度は俺」

「…………」

 その手が。

 膝の上で握り締めていた亜美の手に触れた。

「力入りすぎ」

「……だって」

「緊張してる?」

「します……」

「そっか」

「…………」

 幸也の指が。

 固く握られていた亜美の指を、ゆっくり開いていく。

 ひとつ。

 またひとつ。

 そして。

 開かれた手のひらに。

 幸也の指が重なった。

「…………」

 触れているだけ。

 まだ。

 握られない。

「亜美ちゃん」

「……はい」

「好き」

「…………」

 一瞬。

 何を言われたのか分からなかった。

「……え?」

「好きだよ」

「…………」

 今度は。

 はっきり聞こえた。

 幸也の指が。

 亜美の指の間へゆっくり入る。

「俺と付き合って」

「…………」