忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 気づかなければ。

 今まで通りでいられた。

「幸也さん」

「ん?」

 数日後。

 部室へ来た亜美が、幸也の隣から楽譜を覗き込んでいる。

「これ、今度弾くんですか?」

「そのうち」

「聴きたいです」

「また?」

「……駄目ですか?」

「駄目って言ってないじゃん」

「じゃあ聴きたいです」

「はいはい」

 亜美が笑う。

 その横顔を見ていた幸也と目が合った。

「……何ですか?」

「別に」

「今、見てましたよね」

「見てた」

「…………」

「何その顔」

「だって、普通に認めるから……」

「見てたし」

 亜美が困ったように俯く。

 耳まで赤い。

 前から知っていた。

 亜美は分かりやすい。

 少しからかえば赤くなって。

 名前を呼ぶだけで嬉しそうにする。

 でも。

 好きだと分かってからは。

 その一つ一つが目につくようになった。

「亜美ちゃん」

「はい?」

「近くない?」

「え?」

 亜美が二人の距離に気づく。

「……っ、ごめんなさい!」

 慌てて離れた。

「そんな離れなくてもいいけど」

「どっちですか……」

「何が?」

「もう……」

 幸也は少し笑った。

 今までだって、これくらい近くにいたことはある。

 亜美が自分を好きだと知っていても。

 何とも思わずにいられた。

『ごめん』

 文化祭の前日。

 亜美から告白されて。

 断った。

 直充の妹だから。

 あのときは。

 それで終われると思っていた。